研究課題/領域番号 |
19H03572
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
冨本 秀和 三重大学, 医学系研究科, 教授 (80324648)
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研究分担者 |
及川 伸二 三重大学, 医学系研究科, 准教授 (10277006)
新堂 晃大 三重大学, 医学部附属病院, 准教授 (60422820)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / アミロイド血管症 / アミロイドβ / グリンパティック / 血管周囲腔 |
研究実績の概要 |
本研究は、アルツハイマー病(Alzheimer disease, AD)の原因蛋白であるアミロイドβ蛋白(Aβ)の脳外クリアランス機構に着目し、Aβが脳血管に沈着して生じる脳アミロイド血管症(cerebral amyloid angiopathy, CAA)の病態解明と治療法の開発を目的としている。 Aβの脳外排泄には脳微小血管が重要な役割を果たしており、血管中膜を介する動脈周囲排泄路(iPAD)、ならびに血管周囲腔を介するグリンパティック系によって、Aβが最終的に血管周囲リンパ組織や静脈系に排出される。従って、脳血管へのAβ沈着による血管損傷はAβクリアランス機能障害の直接の転帰と考えられる。 本研究では1) CAA剖検脳における脳内炎症の意義;CAA脳血管における脳内炎症関連分子と補体、ApoE蛋白沈着の関係性を解明し、2) CAA バイオマーカーの開発;CAA、AD患者、コントロール血清を対象にプロテオーム解析を行い、補体がCAAの末梢血バイオマーカーとなる可能性について検討した。さらに、3) CAAモデルマウスを用いたCAA治療薬開発;CAAモデルマウスでヒトと同様の脳内炎症と補体の沈着を証明した。抗補体抗体がAβクリアランス機能を改善してAD/CAAを根治する新規治療薬となる可能性について検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述した1)~3)の3項目において下記の結果を得るなどおおむね順調に進んでいる。 1)CAA剖検脳における脳内炎症とAβ排泄機能の障害機序の解明;上記の結果から、補体がCAAの病態に関与する可能性が考えられたため、補体の脳内分布をAD剖検脳で調べた。補体がAD患者の脳実質(老人斑)、脳血管に沈着することは既報告があり、特に脳外クリアランスに関与する微小血管に着目した。毛細血管にAβ沈着が生じるCAA type 1では、Aβ陽性の微小血管に選択的に補体(C1q、C3d)、ApoE蛋白の沈着を認めた。一方、毛細血管にAβ沈着を認めないCAA-type 2群の毛細血管では陰性であった。 2)CAAの末梢血バイオマーカーの確立;CAA患者と対象群の患者血清を対象にプロテオーム解析を行った。非神経疾患対象と比較してCAA患者血清では補体が優位に高値であり、血液バイオマーカーの候補となる可能性が示された。一方、ADでは対象群にくらべ高値の傾向にあったが有意差は認めなかった。 3)CAAモデルマウスでAβ排泄機能を改善し、AD/CAAを根治する治療法の開発;CAAモデルマウスに慢性低灌流負荷を行うことでCAAの病理変化が促進されること、変性血管に補体が沈着することを見出した。さらに、アクアポリン(AQP)4がグリンパティック系の制御に重要な機能を果たしていることから、AQP4とアストロサイトのマーカーであるGFAPを用いて染色し、AQP4の分布異常について検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
上述した3項目についてそれぞれ述べる。 1)CAA剖検脳における脳内炎症とAβ排泄機能の障害機序の解明;PTX3は補体の活性化抑制に関与する炎症関連分子であり、微小血管における補体(C1q、C3d)、ApoE蛋白発現との関係について病理学的に検討を行う。 2)CAAの末梢血バイオマーカーの確立;補体がCAAの血液バイオマーカーの候補となりうることが示され、症例数を増やして引き続き検討を行う。 3)CAAモデルマウスでAβ排泄機能を改善し、AD/CAAを根治する治療法の開発;末梢血バイオマーカーでの検討結果や、CAAモデルマウスに慢性脳低灌流負荷を行うことで微小血管への補体発現が亢進する事実から、補体がCAAの病態進展に重要な役割を果たしていることが示唆される。CAAモデルマウスで補体が沈着する微小血管におけるApoE, PTXの発現を明らかにする。さらに、抗補体抗体の投与を行って、脳内微小血管における炎症関連分子の発現、末梢血バイオマーカーとしての補体値への影響を調べ、抗補体抗体による補体系の活性化抑制がCAAの治療機転となる可能性について検討する。
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