研究課題/領域番号 |
19H03573
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
漆谷 真 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (60332326)
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研究分担者 |
朝長 啓造 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 教授 (10301920)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / superoxide dismutase 1 / オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC) / 抗体 / 再生 / scFv / 細胞間伝搬 |
研究実績の概要 |
家族性筋萎縮性側索硬化症の本邦最大の原因であるSOD1遺伝子変異による運動ニューロン変性は変異遺伝子によって生成されるミスフォールドSOD1が分子基盤である。近年アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を用いた核酸治療の開発が進み、SOD1も治験が行われ有望な結果が得られつつある。しかし、現在のASOは野生型、変異型ともに転写抑制をするもので、野生型SOD1の発現が低下する。以前は野生型SOD1の減少はALS病態とは無関係と考えられてきたが、近年SOD1の機能喪失が原因と考えられる変異SOD1症例が報告されたことから、変異SOD1特異的な除去が求められる。本研究は、ミスフォールドSOD1を特異的に認識する独自のモノクローナル抗体D3-1から一本鎖抗体scFvを構築し、ボルナウイルスベクターを用いてオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)に感染させ、「治療抗体を分泌するOPCの移植」という新規治療法を検証することを目的とするものである。2020年度はD3-1の全長抗体を変異SOD1(H46R)を発現するトランスジェニックラットの髄腔内に持続投与し、進行の有意な抑制と病理所見の改善を得た。さらにD3-1のscFvをクローニング、ボルナウイルスベクターに組み込み、ラット初代培養OPCに感染させ、D3-1を分泌する培養OPC細胞の作製方法を確立させ、少数の変異SOD1ラットの髄腔内投与によって抗体単独、あるいはOPC単独移植に比べて、握力等の表現系の改善、著明に進行抑制と寿命の延長が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、変異SOD1蛋白質の細胞外分泌の病原性と治療候補としての正当性、さらに我々が作出したモノクロナール抗体D3-1の治療薬候補、とくに臨床応用を念頭に置いた場合の全長抗体の有用性を検討した。その結果、全長抗体D3-1の浸透圧ポンプを用いた髄腔内持続注入療法が有意に進行を抑制し、運動ニューロン死の減少、グリオーシスの抑制効果を示した。同時にOPC単独移植と、ボルナ病ウイルスベクターに搭載したD3-1 分泌型scFvを感染させたD3-1の移植実験を進め、両者の比較において抗体分泌型OPC移植の有効性が観察されたが、さらに実施個体数を増加し、寿命への効果の観察とともに、病態解析研究ためのサンプリングを実施している。 研究期間中に、学内工事に伴う実験室の異動などでOPCの初代培養のコンディションが不良な時期が数ヶ月続いたが、現在安定した培養状態を回復した。 これらは2019年度の計画にほぼ沿ったものである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はさらに投与ラット数を増加させ、有効性を確認するとともに、そのメカニズムの検証を行う。具体的には移植個体(OPC単独、D3-1抗体産生OPC)、抗体投与個体、対照個体の脊髄を採取しミスフォールドSOD1の量変化と、病理解析を行うとともに、cDNAマイクロアレイによる網羅解析を行う。 昨年末に国際学会(MNDA オーストラリア パース)にて途中経過を報告したが、本年も進捗について国際学会で発表し、論文化、あるいは創薬に向けた情報収集を行う予定である。 一方、髄腔内投与ではウイルスベクターや核酸の実質移行効率が低いことが知られているが、近年、ウイルスベクターの脊髄の軟膜下投与が中枢神経系への以降効率を著明に高めることが報告され、OPCの移植も同様の方法で検討することも予定している。
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