昨年度までに、変異SOD1を特異的に認識するモノクローナル抗体D3-1を変異SOD1トランスジェニックラットの髄腔内投与による進行抑制と寿命延長効果を確認し、さらにD3-1のハイブリドーマ由来のscFvの作製とボルナ病ウイルスベクターへの組み込みと、変異SOD1トランスジェニックラット少数例の髄腔内投与で進行抑制の傾向を観察していた。 本年度は(1)投与数を増やすこと、(2)脊髄内への直接投与を行い髄腔内投与との比較を行うこと、(3)有効な投与経路を決め、その有効性の分子メカニズムをトランスクリプトーム解析を用いて明らかにすること、の3つの課題に取り組んだ。その結果(1)D3-1を分泌するOPC(OPC-D3-1)はOPC-D3-1単独、さらに生理食塩水対照群と比較して著しく進行を抑制し、組織化学的検討により運動ニューロン死の抑制、ミクログリアやアストロサイトの増生の抑制、さらに神経筋接合部の減少も抑制した。さらにラット脊髄のウェスタンブロット法により、変異SOD1の発現量を抑制し特に不溶性成分について、高い減少効果を認めた。一方、脊髄への直接移植は明らかな改善効果を認めなかった。 髄腔内投与を受けた3群(生理食塩水対照群、OPC単独群、OPC-D3-1群)のトランスクリプトーム解析の結果、OPC-D3-1群で炎症関連分子の発現抑制が認められ、特に酸化LDL受容体の発現が著明に抑制された。 以上より、変異SOD1に対する治療scFvをOPCに発現させ、髄腔内に移植するという再生免疫治療の開発に成功し、その治療メカニズムについても明らかにすることが出来た。3年間の研究は予定通り進捗し、成果は国際学術誌に投稿した。
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