研究課題
本研究では、HTLV-1関連脊髄症(HAM)の病態形成の基盤となる感染細胞の後天的ゲノム変異、エピゲノム異常、ウイルス因子に関する全データを取得し、さらに既に保有しているHAM感染細胞、成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)細胞、発症前キャリア(AC)感染細胞に関する遺伝子発現データ、及びATLにおける全クロマチン構造を含むエピゲノムデータと統合的に解析することにより、HAM感染細胞の「異常形質」を規定するゲノム・エピゲノム制御機構の解明を目指す。今年度は、HAM患者において、HTLV-1感染細胞に組み込まれたウイルス全構造のシークエンスをViral DNA-Capture-Seq Approachという新規方法を用いて詳細かつ正確に解析し、HAM患者におけるウイルスの変異情報を解明、国際一流雑誌に報告した(Cell Rep, 29(3):724-735, 2019)。また、HAM患者のHTLV-1感染細胞におけるクローナリティと体細胞変異の有無について次世代シークエンサーを用いた解析を行い、HAM患者においても、HTLV-1が原因で発症するATLを比較的高率に発症し、さらに、ATLに高頻度に認められる体細胞変異をきたしたHTLV-1感染細胞クローンのclonal expansionを来している患者は、ATLを発症するリスクが極めて高いことを解明し、国際一流雑誌にアクセプトされた(Proc Natl Acad Sci USA, in press)。
2: おおむね順調に進展している
①HAM感染細胞におけるHTLV-1ウイルスの全構造をViral DNA-Capture-Seq Approachという新規方法を用いて解析した。②HAM患者のHTLV-1感染細胞におけるクローナリティと体細胞変異の有無について次世代シークエンサーを用いた解析を行い、HAM患者においても、HTLV-1が原因で発症するATLを比較的高率に発症し、さらに、ATLに高頻度に認められる体細胞変異をきたしたHTLV-1感染細胞クローンのclonal expansionを来している患者は、ATLを発症するリスクが極めて高いことを解明した。③ HAM感染細胞におけるエピゲノム異常の解析を実施した:(a) エピゲノム異常の網羅的解析を実施した。具体的には、HAM患者の感染細胞(CD4+CADM1+)、非感染T細胞(CD4+CADM1-)をFACS sortingで分取し、各集団に対してATAC-seqを実施し、全ゲノム領域のクロマチン構造を明らかにした。また、HAM感染細胞に関してH3K27acのChIP-seqを実施し、クロマチン構造変化の原因を明らかにした。(b)遺伝子発現変化へのエピゲノム異常の解析も実施した。さらに、 (c) エピゲノム異常の原因メカニズムの検討を行った。具体的には、エピゲノム異常形成への関与が予想されるHTLV-1 Taxによる作用を明らかにするために、Taxを発現した細胞を蛍光タンパク質でモニタできるレンチウイルスを導入したT細胞を作製し、継時的なTax発現T細胞を取得した。加えて、Tax依存的不死化細胞、HTLV-1感染不死化細胞を樹立し、これら細胞の全遺伝子発現解析およびATAC-seqを実施した。
HAM患者におけるHTLV-1感染細胞のクローナリティ状態を把握し、クローナリティ状態に応じた遺伝子発現解析を実施することで、HAM感染細胞の「異常形質」のさらなる詳細な解明を進める。また今年度は、② HAM感染細胞におけるゲノム異常の解析を進める。具体的には、(a) ゲノム異常の網羅的解析:HAM患者由来感染細胞(CD4+CADM1+分画)と、対照群として同一症例の非感染T細胞群(CD4+CADM1-分画)の全エクソン解析 (WES)を実施し、HAM感染細胞特徴的な体細胞変異を同定する。(b) クリニカルシークエンスパネルを用いたゲノム異常の検証:②-(a)のWESにより抽出された遺伝子を組み込んだシークエンスパネル(HTLV-1 panel)をアップデートし、宿主300遺伝子およびウイルスゲノムに対する高深度Target-seqを多数例のHAM患者検体を用いて実施する。変異アレル頻度情報を元に、各変異クローンのサイズからクローン毎の発生順序を予測可能なPyclone-ClonEvolソフトウエアを用いて遺伝子異常推移をクラスタリング描画する。さらに、HAM患者由来の髄液細胞についても同解析を実施する。HAM患者の臨床情報(重症度、進行度や髄液炎症レベル)との相関性やATL患者データ(取得済み)と比較解析することで、発症予測因子、予後予測因子としての有用性についても検討する。(c) 変異遺伝子の機能的解析:WES及びTarget-seqから明らかになった遺伝子異常のうち、HAM細胞の増殖、炎症、神経細胞との相互作用に関わる遺伝子を抽出し、機能的意義をHAM細胞モデルに対してshRNA等を用いて検討する。
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