統合失調症は全世界における能力障害の原因として第9位を占める疾患であり、経済損失は3-4兆円に達し、適切な治療が極めて重要である。統合失調症は、これまで「脳内ドパミンの過剰放出により引き起こされ、ドパミン受容体遮断薬により治療する」という“ドパミン仮説”が広く受け入れられているが、ドパミン受容体遮断薬では陰性症状(無為、自閉など)や認知機能障害は改善しない。また、治療抵抗性統合失調症に対して最も有効であるクロザピンによるドパミン遮断の程度は低いという矛盾も存在する。これらの事実はドパミン仮説の限界の証左であり、全く新しい視点からのブレイクスルーが必要である。統グルタミン神経系のAMPA(α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メソオキサゾール-4-プロピオン酸)受容体は、動物研究により統合失調症の発病への関与が明らかになっているが、ヒトのデータはなかった。AMPA受容体が本疾患の病態生理に果たす役割を明確にするためには、グルタミン神経系の包括的な評価が必要である。そこで本研究では、統合失調症患者において、AMPA受容体密度([11C]K-2 PET)、帯状回のグルタミン酸濃度(magnetic resonance spectroscopy: MRS)、白質神経線維の走行・統合性(diffusion tensor imaging: DTI)、脳領域間の機能結合(resting-state functional MRI: rsfMRI)を測定し、多面的にグルタミン酸神経系を評価し、健常者と比較し、AMPA受容体の統合失調症の病態生理における役割を解明することに取り組んだ。また様々な病期、病態を示す統合失調症患者を脳内AMPA受容体密度に基づき層別化することも目的とした。 2021年度末までに統合失調症患者30名と同数の健常者を組み入れ、撮像を実施し、本試験を完了した。
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