研究課題/領域番号 |
19H03588
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
宮川 卓 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 主席研究員 (20512263)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ナルコレプシー / 睡眠 / メタボローム解析 / 睡眠ポリグラフ検査(PSG) / 睡眠潜時反復検査(MSLT) / 一塩基多型(SNP) / オミックス解析 |
研究実績の概要 |
前年度に実施した脳脊髄液(CSF)のメタボローム解析の症例(ナルコレプシー14例とコントロール17例)は、睡眠ポリグラフ検査(PSG)と睡眠潜時反復検査(MSLT)も実施されている。これら検査の結果とメタボローム解析により得られた各代謝物に関連性が認められるか解析を行った。結果として、5’-deoxy-5’-methylthioadenosine(MTA)がPSG時の無呼吸低呼吸指数(AHI:1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせた回数)と有意な関連を示し、MTA濃度が低いとAHIが高い値を示すことを明らかにした。またその他MSLT時のレム潜時(入眠時からレム睡眠が出現するまでの時間)と関連する代謝物として、γ-アミノ酪酸(GABA)やカフェインの代謝物が検出された。 さらにCSFのメタボローム解析のデータを用いたオミックス解析を実施するために、ゲノムワイドに一塩基多型(SNP)タイピングを同サンプルにて実施した。そのSNPタイピングでは、Affymtrix 社のGenome-Wide Human SNP Array version 6.0を使用した。このオミックス解析により、CSF中の各代謝物濃度に影響を与える遺伝要因を同定することが可能となる。 SNP の call rate(95%以上)、ハーディ・ワインベルク平衡(P 値 0.001 以上)及びマイナーアリル頻度(5%以上)の基準を満たしたSNPを選択し、その後の解析に用いた。次にSNPと関連する代謝物の探索するために、年齢、性別、疾患情報及びBMI(Body Mass Index)を共変量として回帰分析を実施した。回帰分析の結果、18の代謝物とSNPのペア(10種類の代謝物と17個のSNP)がゲノムワイド有意な関連を示した。これらの17個のSNPの中で4個のSNPは、遺伝子発現に影響を与えていることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CSF中の代謝物と客観的睡眠検査との関連を探索した研究はこれまでになかった。今回、CSF 中MTA濃度とPSG時の無呼吸低呼吸指数、及びCSF中GABA濃度とMSLT時のレム潜時に関して、有意な関連が認められることを明らかにした。また、アジア人集団を対象としたCSF中の代謝物濃度に影響を与える遺伝的な要因(量的形質遺伝子座(Quantitative trait locus、QTL))は、これまで実施されていない。しかし、本研究では日本人を対象としてCSFのメタボローム解析とゲノムワイドSNPタイピングのデータを用いて、ゲノムワイド有意な関連を示すSNPを明らかにした。新型コロナウイルス感染症の影響で、被験者からのサンプル収集に関して遅れは確かにあるが、解析方法の工夫などで、上記で記載したように、一定の研究成果を得ることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
メタボローム、遺伝情報(ゲノムワイドなSNP)及び睡眠検査のデータをこれまで解析してきたが、より充実したオミックス解析を実施するためにも、今後はトランスクリプトーム解析の情報が必要になる。そこで、現在次世代シークエンサーによるRNA-seqを実施するための準備を進めている。メタボローム解析のデータと睡眠検査のデータを統合した解析により同定されたMTAはがんや炎症に関与するとの報告はあるが、MTAと睡眠に関してはこれまで報告がなされていない。そのため、MTAがどのように睡眠時の無呼吸や低呼吸に関与するか機能的な検討が必要である。また、これまでの多くの研究でGABAやカフェインは睡眠と深く関連することが報告されており、今回の研究では、睡眠の中でもレム睡眠の出現のし易さとの関係が確認できた。CSFのメタボローム解析とゲノムワイドSNPタイピングデータを用いたオミックス解析では、まだサンプルサイズが十分とは言えないため、偽陽性の結果が含まれている可能性は否定できない。今後はサンプルサイズを拡充した解析を実施するべきと考えられる。
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