研究実績の概要 |
CTやPETで診断できない微小転移がんの制御は,今後の治療成績向上の為の最も重要な課題であり,その改善は患者の予後に大きな恩恵を与えることが容易に予想できる.長年にわたる生体防御機構とその異常による易感染性疾患に関する基盤研究の経験を基にがん制御の分野に参入した研究者グループとの連携により,がん治療成績向上のため,転移がんの制御を目的に,単独の細胞を活性化するのではなく,ケモカインの投与により,各種のリンパ球やNK細胞を協調して活性化させることで,全く新しいがんの治療分野の開拓を目指している.通常の治療に用いられるX線と異なり,線量分布に優れる炭素イオン線との併用による免疫機構の増強こそが最適と考え,転移抑制が可能になるのではないかと着想するに至った. 本年度は炭素イオン線照射前と後に時間を追って採血し,血中のアラーミン分子HMGB1,HSP70の変動,IFN-γなどの動向,血球の過酸化脂質,白血球中の8OHグアノシンの生成状況などを解析することを目指した.さらに,各種がん細胞と各種系統マウスを用いて,ケモカインとアラーミン分子の照射後の効果が普遍的であることを立証することを計画していた. 研究補助者のスキルアップまでに時間を要し,コロナ禍での研究室への立入制限の影響により,進捗が遅延した.それでも,マウス大腸癌細胞Colon26をBALB/cマウスの右腹側皮下に移植して,腫瘍が10 mm径に達したところで,他臓器(特に骨)を避けて腫瘍局所に照射するためにX線透視画像にて位置決めを行い,コリメーターで遮蔽する条件設定を決定することができた.この条件で炭素線290MeV/n, SOBP6 cmビームを用いて3 Gyを単回照射した.照射後のマウスを経日的に採血し,血中のHSP70の変動をELISA法で解析した.炭素線単独でわずかであるがHSP70量の増加が確認できた.
|