研究課題/領域番号 |
19H03605
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
織内 昇 福島県立医科大学, 公私立大学の部局等, 教授 (40292586)
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研究分担者 |
阿部 悠 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (00722472)
趙 松吉 福島県立医科大学, 公私立大学の部局等, 教授 (80374239)
西嶋 剣一 福島県立医科大学, 公私立大学の部局等, 講師 (60364254)
右近 直之 福島県立医科大学, 公私立大学の部局等, 助教 (70792985)
伊藤 浩 福島県立医科大学, 公私立大学の部局等, 教授 (20360357)
長谷川 有史 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (70404879)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / CXCR4 / CXCL12 / 211At / アスタチン / α線 / 急性白血病 / 核医学治療 |
研究実績の概要 |
腫瘍内の多様性、すなわち腫瘍組織を構成する癌細胞が均一な集団ではなくポリクローナルであることは、検査の際のサンプリングバイアスなど診断の不正確性を生じさせるだけでなく、治療抵抗性の獲得や再発にも深く関与している。癌細胞クローンの不均一性の原因として現在支持されている考えは、癌幹細胞(CSC)の存在であり、CSCが自己複製するとともに、前駆細胞として分化・増殖し、分化した細胞とともに腫瘍を形成するという階層性モデルが主流である。CSCは治療の度に治療抵抗性を示す腫瘍細胞のクローンを誘導し、治療抵抗性の細胞が優勢になると、その治療は臨床的に無効となる。優勢となる細胞は増殖のスピードが速いため腫瘍の増大をもたらし、肉眼的にも悪性度が増すことになる。CSCが治療抵抗性や悪性度の獲得や増悪の鍵であるとの考えに立つと、CSCを標的とした治療が癌の制圧には不可欠と考えられる。 C-X-C chemokine receptor type 4 (CXCR4)は、7回膜貫通型の受容体で、ケモカインCXCL12の結合などによって細胞内のシグナル伝達を活性化し細胞の分裂と運動性の亢進、すなわち増殖、浸潤ならびに転移を促進させる。CXCR4は正常細胞にも発現するが、CSCに広く発現している。これまでの報告では、多くの固形癌や血液腫瘍でその発現が確認されている。したがってCXCR4を標的とした癌治療の有効性が考えられるため、CXCR4に対する抗体に細胞障害性の強いα線を放出するアスタチン211(211At)を標識した治療薬による新規治療の開発を目指して211At標識抗CXCR4抗体(211At-CXCR4 mAb)の体内動態を評価するpreliminaryな研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
211Atによる核医学治療は、α線の飛程が短い特徴から血液腫瘍に対する治療が有効と思われる。ヒト急性白血病(AML)の樹立細胞(U937)を皮下に移植したマウス腫瘍をモデルに211At-CXCR4 mAbを投与し、腫瘍集積および体内動態から、治療応用の際に重要な骨髄および副作用が問題となり得る臓器についてOLINDA/EXM ver. 2.0.でヒト吸収線量の評価を行った。 211At-CXCR4 mAbの腫瘍への集積は比較的低いが、体内動態と腫瘍/正常臓器比は6時間が最も高く、211Atの物理学的半減期と比較して適当な集積動態と考えられた。211At-CXCR4 mAbの線量評価の結果から、10, 20 mmの腫瘤に対しては、正常臓器の許容線量を担保する投与量での線量は十分ではないことが推定されたが、AML細胞およびその幹細胞は、血液中や骨髄で単独あるいは少数細胞のコロニーとして存在している可能性を考慮すると、今回の検討で使用した211At-CXCR4 mAbは、治療効果を与え得るものと推察された。
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今後の研究の推進方策 |
血中や骨髄に存在する白血病細胞の線量評価を研究課題としたい。そのためには、今回用いたものよりもCXCR4に対する親和性の高い抗体を用いて高比放射能の標識を行うことが望ましい。また、α線の線量評価は確立していない中で、血中に浮遊し骨髄中でも少数の細胞がコロニーを形成していることが推測される血液腫瘍やCSCの治療効果とともに、正常臓器の障害を詳細に予測する線量評価と細胞レベルでの障害の解明が不可欠である。 次年度はα線による正常細胞の障害を、染色体異常の解析により明らかにする。
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