これまで使用してきたベクターを改良し、ベクターの最適化を行い、遺伝子の発現量を適切に抑えたステルス型RNAベクター(SRV)用いて、研究を継続した。昨年に引き続き、共通ガンマ鎖欠損マウスの骨髄から得られた造血前駆細胞をセルソーターで純化し、このベクターを用いて遺伝子導入した後、ポリビニールアルコール入り培養液で増殖させたのち、共通ガンマ鎖欠損マウスに静脈内投与を行い、遺伝子治療の効果を検討した。末梢血T細胞数が上昇し、長期間減少傾向がみられないことが確認されたが、やはりベクター由来の遺伝子発現は消失していることが確認された。即ち、造血前駆細胞に共通ガンマ鎖が一時的に発現することによって、T細胞の分化が誘導可能であること示唆する結果であった。最終的に多くのマウスで検討を行うと、T細胞の分化が認められるマウスは一部のマウスであり、安定した結果を得るまでには至らず、その理由は不明であった。コロニーアッセイでは安定した遺伝子導入がされていることを以前確認しているが、造血前駆細胞に安定的に遺伝子導入をするには、さらにベクターの調整を考慮しつつ研究を継続する。一方で、このベクターは、種々の線維芽細胞やiPS細胞等には安定的に遺伝子導入が可能であることから、より早く臨床実装を達成するためには、種々の遺伝性の酵素欠損症などを対象疾患として、欠損するタンパクを分泌させる治療法の開発研究へ展開していく必要もあると考えている。
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