研究課題/領域番号 |
19H03620
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
岡田 賢 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (80457241)
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研究分担者 |
小原 收 公益財団法人かずさDNA研究所, その他部局等, 副所長 (20370926)
津村 弥来 広島大学, 医系科学研究科(医), 研究員 (80646274)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 慢性皮膚粘膜カンジダ感染 / メンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症 / CMC / MSMD / STAT1 / RORγT / IL-17RC / 多発性骨髄炎 |
研究実績の概要 |
原発性免疫不全症(PID)は、宿主の免疫能が障害され、多彩な病原体に易感染性を示す遺伝性疾患である。本課題ではPIDのなかでも、抗酸菌に選択的に易感染性を示すメンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症(MSMD)と、カンジダに選択的に易感染性を示す慢性皮膚粘膜カンジダ症(CMC)に着目して研究を実施した。その結果、令和2年度に以下の研究実績を達成した。 1) マイコバクテリアに加えてウイルスに対して易感染性を示した患者で、STAT1の複合ヘテロ変異を同定し、本邦初のSTAT1完全欠損症と診断確定した。イントロン領域の変異に由来したSTAT1完全欠損症は世界初であり、同定した変異がスプライシングに影響を及ぼすことを証明し論文報告した。確定診断後、救命に造血幹細胞移植が必要と判断し、非血縁者間造血幹細胞移植を実施した。移植は成功し、諸症状が著明に改善し救命を得た。臨床的にも貴重と考え、移植に着目した症例報告を行った。 2) CMC患者において、本邦初のIL-17RC欠損症を同定した。患者は、エクソン単位の重複をホモ接合体として有しており、IL-17RCのタンパク発現が障害されることでCMCを示したと考えており、機能解析による検証を予定している。 3) MSMDとCMCを合併した患者において、RORγT異常症の患者を2家系(2症例)同定している(世界で第4, 5家系に相当する)。世界に5家系しか存在しない貴重な症例であり、本症の詳細な病態解析を実施している。 4) MSMDでは多発性骨髄炎が好発する。MSMD患者の骨髄炎の病理標本の検討で、破骨細胞の増殖を同定した。IFN-γは破骨細胞の増殖抑制に働くため、IFN-γへの反応性低下が破骨細胞の過剰増生の分子基盤になると考えて研究に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
STAT1完全欠損症について、同定した変異がスプライシングに影響を及ぼすことを実験的に検証し論文報告を達成した(Sakata S, et al. J Clin Immunol., 2020)。本症例は、診断に基づき非血縁者間造血幹細胞移植を実施し救命を得ている。STAT1完全欠損症における造血幹細胞移植は世界で5例目であり、移植に焦点をあてた症例報告も達成した(Karakawa S, et al. J Clin Immunol. 2021)。 CMCの主要な原因であるSTAT1機能獲得型(GOF)変異の解析も進んでいる。これまでの検討で、STAT1の脱リン酸化を担う分子群を同定しており、それらの分子群との結合状態の検討、脱リン酸化効率を測定することで、STAT1-GOF変異の分子メカニズムが明らかになりつつある(論文準備中)。 CMC患者を対象とした遺伝子パネル解析により、本邦初のIL-17RC欠損症の同定に成功している。IL-17RC欠損症は世界的にも稀で、過去に3症例3家系をまとめた論文が一報あるのみである。同定した変異の機能解析も順調に進んでおり、IL-17RCのmRNAは正常近くに保たれているものの、タンパク発現が障害されていることが既に示されている。過去の論文報告を検証し、IL-17RC欠損症の疾患概念を確立する上でも重要な研究と考えており、より詳細な解析を予定している。 特筆すべき成果として、MSMD患者の骨髄炎の病理標本の検討で、破骨細胞の増殖を発見している。現在、IFN-γへの反応性低下が破骨細胞の過剰増生の原因になると考えて研究を実施している。患者骨髄由来単核球を用いた検討で、既に仮説を裏付ける興味深いデータが得られており、詳細な検討を予定している。 一連の研究成果に基づき、現在までの進捗状況は『当初の計画以上に進展している』と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
未診断のMSMD、CMC患者の募集が順調に進んでいる。これらの患者に対する全エクソーム解析、RNAシークエンスを併用した網羅的解析も順調に進んでおり、それらを継続することで新規責任遺伝子の同定を目指す。 MSMDとCMCを合併する疾患として、RORγT異常症の病態解明を継続する。RORγTはTh17細胞のマスター転写因子と考えられていることから、患者由来末梢血単核球を用いたATAC-seqで、オープンクロマチン領域の観察を予定している。患者検体は非常に貴重であることから慎重に準備を進めており、ATAC-seqの条件設定、他疾患の患者を対象とした試験的運用が終了した段階である。 STAT1-GOF変異を持つ患者の解析については、STAT1-GOF変異と脱リン酸化酵素との関係性について、追加の検証実験を行った上で論文報告を予定している。既知のSTAT1-GOF変異を網羅的に解析した結果も併せて論文化する予定であり、STAT1-GOF変異の分子病態を明らかとする上で重要な報告ができると考えている。 MSMD患者で認める骨髄炎のメカニズム解析は、患者由来破骨細胞を利用した機能解析が当初の想定以上に順調に進んでいる。既に、IFN-γへの反応性低下が破骨細胞の過剰増生の原因になることを示す有力なデータが得られており、これらの検証実験を加えた上での論文化が期待できる状況にある。本課題の期間中に論文化できるように最善を尽くす。 上記の包括的アプローチにより、MSMD、CMCの分子病態の解明を進めるとともに、論文化による研究成果の公表を積極的に行う。
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