研究実績の概要 |
精神・運動の発達遅延、言語障害、特徴的な頭蓋顔面異常(長頭症、平坦な顔、眼間解離、耳介低位、上向きの鼻孔など)、過食症、脳構造の異常を呈する新たな臨床像を呈する3症例を対象に、全エクソーム解析を用いて遺伝子変異の解析を行い、その結果3症例それぞれにMN1遺伝子のエクソン2に短縮型変異を同定した。MN1遺伝子は二つのエクソン領域から構成されるが、健常者もしくはコントロール集団に認められた短縮型変異は、すべてエクソン1に存在しナンセンス変異依存mRNA分解 (NMD)を受けるため、MN1タンパク質が産生されないのに対し、患者に同定された変異はエクソン2にありNMDを受けないため、C末端の欠けた短いMN1タンパク質が産生される。MN1タンパク質は細胞増殖を抑制することが知られていたが、変異型を導入すると野生型よりも強い細胞増殖を抑制する効果が認められ、今回の変異が機能獲得型変異(細胞増殖抑制の増強)であることを明らかにした。また、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析を併用し、①MN1タンパク質が転写因子PBX1, PKNOX1,ZBTB24に結合すること、②MN1タンパク質は通常RING1を含むユビキチンプロテアソーム系により速やかに分解されていること、③ 変異MN1タンパク質では、ZBTB24とRING1との結合が阻害されていることを明らかにした。以上より、本症候群発症のメカニズムとして、C末端が消失するMN1遺伝子の変異によりRING1との結合が阻害され、タンパク質の安定性が増し、通常のMN1タンパク質による転写制御のON, OFFのスイッチが適切に切り替わらないことで、下流の遺伝子の転写制御に異常をきたすという発症モデルを提唱した (Miyake et al., Am J Hum Genet, 2020)。
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