研究課題/領域番号 |
19H03626
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
永田 典代 国立感染症研究所, 感染病理部, 室長 (30270648)
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研究分担者 |
西村 順裕 国立感染症研究所, ウイルス第二部, 主任研究官 (00392316)
清水 博之 国立感染症研究所, ウイルス第二部, 室長 (90270644)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エンテロウイルスD68 / 動物モデル / 急性弛緩性麻痺 |
研究実績の概要 |
エンテロウイルスD68(EV-D68)は呼吸器感染症を起こすことが知られていたが、2014年8-9月に北米で発生したEVD68による急性重症呼吸器感染症のアウトブレイクの際に、同時期にポリオ様の麻痺を発症した患児が多数報告され、神経病原性エンテロウイルスとしての可能性が注目された。国内でも2015年のEV-D68流行時に急性弛緩性麻痺患者の咽頭拭い液等からEV-D68が検出されたことから、神経病変とウイルス感染症の関連性が疑われているが、現在まで直接的証明には至っていない。我々は、2015 年秋の EV-D68 の流行時に感染症発生動向調査により分離された呼吸器疾患患者由来株を用いてEV-D68 脳内接種後の新生仔マウスにおける臨床症状と病理像を観察した。接種後の動物は接種 5 日目頃から、前肢から始まる弛緩性麻痺を発症した。接種 3 日目の未発症個体の頚髄前角組織に存在する大型の神経細胞においてウイルス抗原が観察された。接種 6 日以降、感染局所は炎症性細胞に置き換えられ、ほとんどウイルス抗原は検出されなかった。麻痺は 3 週間以上観察期間が終了するまで持続したが、これらの個体の脊髄前角では炎症は終息し、大型の神経細胞の消失とアストログリアの置換が観みとめられた。また、病変部付近の骨格筋にもウイルス感染とそれに伴う炎症像が認められ、3 週目には麻痺側の肢の骨格筋の萎縮が観察された。以上のことから弛緩性麻痺患者/急性弛緩性脊髄炎発症患者の MRI 画像で認められる脊髄や脳幹の灰白質病変がウイルスに因るものであれば、ポリオとほぼ同様の感染病理であることが推察される。一方で、EV-D68 のマウスの骨格筋親和性がヒトに外挿できるかは不明である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験動物を用いた神経病原性の検証と感染モデルの確立について、マウスにおける病理解析を予定通り遂行した。一方、国内で分離されたEV-D68のうち、新生仔マウスの脊髄の神経細胞に親和性を示し、弛緩性麻痺を引き起こす株を用いて、サルの感染実験については計画し次年度の実施に向けて準備はほぼ整ったところである。
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今後の研究の推進方策 |
予定どおり、実験動物を用いた神経病原性の検証と感染モデルの確立をすすめる。国内で分離されたEV-D68のうち、新生仔マウスの脊髄の神経細胞に親和性を示し、弛緩性麻痺を引き起こす株を用いて、サルの感染実験を実施する予定である。 また、呼吸器・神経系におけるウイルスレセプター発現と感染の検討を行う。引き続き、EV-D68レセプター分子ICAM5非発現細胞(サル由来あるいはマウス由来培養細胞)を用いてヒトICAM5遺伝子導入細胞を作出し、EV-D68分離株のレセプター結合性を評価する。さらに、ウイルス変異と病原性増悪の関連性についての検討をすすめる。培養細胞の継代、マウス接種後中枢神経系と気道から分離されたウイルスの遺伝子配列を次世代シークエンス法で比較解析し、アミノ酸置換を同定する。
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