研究課題/領域番号 |
19H03633
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
加藤 直也 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (90313220)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 肝癌 / 自然免疫 / 発癌抑止 / MICA / NK細胞 |
研究実績の概要 |
MICAはNKG2Dリガンド・ファミリーに属し、肝炎ウイルス感染によって血中分泌型MICAが上昇することが報告されている。そこで、公共のデータベースよりC型肝炎・肝癌患者のRNA-seqデータを入手し、HCV感染によるNKG2Dリガンド・ファミリーの発現変化をmRNAレベルで検討した。その結果、MICA、MICB、ULBP3以外のNKG2Dリガンド・ファミリーはほとんど発現しておらず、MICAの発現量が最も多いことが判明した。C型肝癌ではMICAが自然免疫賦活化に重要な役割を担っていることが明らかとなった。また、mRNAレベルにおいて、HCV感染によるMICAの発現変化は認められなかった。このことより、HCV感染によって血中分泌型MICAが上昇するのは、膜型MICA切断酵素の活性化が原因となっている可能性が示唆された。 膜型MICA切断酵素の候補として、ADAM9、ADAM10、 ADAM17、 ADAM19、 ADAM21、 MT1-MMP、 MMP2、 MMP9を選定し、ヒト肝癌細胞株(HepG2細胞、PLC/PRF/5細胞)中の各遺伝子の発現をsiRNAにてノックダウンした。ノックダウン後の膜型MICA発現量、上清中分泌型MICA量の変化を検討したところ、ADAM9、ADAM10、ADAM17が膜型MICAの切断に有意に寄与していることが判明した。次に、740種類のFDA承認薬ライブラリーを対象として、ADAM9の酵素活性を抑制する薬剤のスクリーニングをin vitro ADAM9 assay systemを確立し、検討した。その結果、2種類のロイコトリエン拮抗薬(モンテルカスト、プランルカスト)が見出され、その後の解析にて、両薬剤が濃度依存的にADAM9の酵素活性を抑制することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝癌における主たるMICA切断酵素を同定し、切断阻害薬のスクリーニング系も確立、実際に肝癌に対する自然免疫反応を賦活化すると期待されるADAM9阻害薬を見出しており、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、MICAを中心とした細胞性自然免疫機構が肝発癌に重要な役割を担っていること、また肝癌細胞は膜型MICAの切断によりNK細胞によるサーベイランスを回避しているという知見を踏まえ、MICAを中心とする細胞性自然免疫機構の肝発癌における役割を明らか にするとともに、MICAの切断阻害を中心とした細胞性自然免疫機構の賦活化により、肝癌の包括的マネジメントを目指す。特に免疫チェックポイント阻害薬の成功から、肝癌細胞が自然免疫機構から回避するメカニズムであるMICA切断阻害を中心に検討を行う。 具体的には、1) 肝癌細胞におけるMICA切断を担う責任酵素の同定、2) 肝癌MICA切断酵素に対する阻害薬のスクリーニング、3) スクリーニングにて得られたMICA切断酵素阻害薬が肝癌細胞とNK細胞との関連に与える影響の解析、4) MICA切断酵素阻害薬ミディアム~ラージスケールスクリーニング系の確立、を行っていく。スクリーニングにより得られたMICA切断阻害薬の臨床展開を模索する。 また、既に癌に対する自然免疫賦活化に成功している抗MICA抗体を有する海外研究グループと共同研究を展開する。そのために、1) 抗MICA抗体の入手、2) 抗MICA抗体によるMICA切断阻害効果の検証、3) 抗MICA抗体が肝癌細胞とNK細胞との関連に与える影響の解析、4) 動物モデルでの抗MICA抗体効果の検証、を行っていく。
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