研究課題
MICAはNKG2Dリガンド・ファミリーに属し、kill me signalとして癌化した肝細胞などの表面に発現され、NK細胞の標的となる。癌化した肝細胞は、膜型MICAを表出することでNK細胞に排除されるが、この細胞性自然免疫システムこそが、癌サーベイランスシステムとして発癌抑止に働いている。ところが肝癌細胞はこの膜型MICAを切断し、分泌型MICAを生成、分泌型MICAによりNK細胞を撹乱し、細胞性自然免疫による排除を回避している。1)複数のNKG2Dリガンド・ファミリーの中でC型肝炎ウイルス感染肝細胞において最も多く発現しているNKG2DリガンドがMICAであることを確認した。2)膜型MICA切断酵素として、ADAM9、ADAM10、ADAM17が膜型MICAの切断に有意に寄与しており、中でもADAM9が中心的な役割を担っていることを明らかにした。3)ADAM9の酵素活性を抑制する薬剤のスクリーニングを行うため、in vitro ADAM9 assay systemを確立し、①740種類のFDA承認薬ライブラリー、②1,300種の千葉化合物ライブラリー、を対象として、スクリーニングを行った。その結果、2種類のロイコトリエン拮抗薬(モンテルカスト、プランルカスト)がADAM9の酵素活性を抑制することを明らかにした。また、肝細胞癌再発を抑止することが報告された非環式retinoidにもADAM9の酵素活性を抑制する効果があることを見出した。非環式レチノイドによる肝細胞癌再発抑止効果は、MICAの切断阻害による可能性がある。加えて、千葉化合物ライブラリーから複数の候補薬剤を見出しており、さらなる検討を行っている。4)ADAM9が膜型PD-L1を切断し、細胞傷害性T細胞の活性化を阻害し、獲得免疫機構からの逃避に寄与している可能性を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
肝癌における主たるMICA切断酵素を同定し、切断阻害薬のスクリーニング系も確立、実際に肝癌に対する自然免疫反応を賦活化すると期待されるADAM9阻害薬を複数見出しており、おおむね順調に進展してると判断した。
引き続き、MICAを中心とした細胞性自然免疫機構が肝発癌に重要な役割を担っていること、また肝癌細胞は膜型MICAの切断によりNK細胞によるサーベイランスを回避しているという知見を踏まえ、MICAを中心とする細胞性自然免疫機構の肝発癌における役割を明らかにするとともに、MICAの切断阻害を中心とした細胞性自然免疫機構の賦活化により、肝癌の包括的マネジメントを目指す。特に免疫チェックポイント阻害薬の成功から、肝癌細胞が自然免疫機構から回避するメカニズムであるMICA切断阻害を中心に検討を行う。具体的には、1) 肝癌細胞におけるMICA切断を担う責任酵素の同定、2) 肝癌MICA切断酵素に対する阻害薬のスクリーニング、3) スクリーニングにて得られたMICA切断酵素阻害薬が肝癌細胞とNK細胞との関連に与える影響の解析、4) MICA切断酵素阻害薬ミディアム~ラージスケールスクリーニング系の確立、5) スクリーニングにて得られたMICA切断酵素阻害薬の構造展開など、MICA切断阻害薬の臨床展開を模索する。また、MICA切断酵素が現在、進行癌の標準療法にもなりつつある免疫チェックポイント阻害薬の標的分子であるPD-L1の切断にも関与していることを明らかにしつつあり、自然免疫のみならず、獲得免疫賦活化の観点からも新たに検討することとしたい。加えて、既に癌に対する自然免疫賦活化に成功している抗MICA抗体を有する海外研究グループと連絡を取り合っているが、臨床試験を行う準備が進んでおり、今後も良好な関係を継続し、最新の情報入手に努めたい。
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