本年度は当初研究計画に従い「ヒトLR型杯細胞の同定と誘導法開発」等について研究を実施した。その結果、以下の様な成果を得ている。近位大腸における分泌型細胞(杯細胞)の遺伝子発現における特徴を描出するため、ヒト上行結腸由来オルガノイド及びヒト直腸由来オルガノイドについて、それぞれ網羅的遺伝子発現解析と特異的遺伝子群の抽出を引き続き実施した。この結果、ヒト直腸由来オルガノイドで高発現(発現差2倍以上)を認める遺伝子群、およびヒト上行結腸由来オルガノイドで高発現(発現差2倍以上)を認める遺伝子群をそれぞれ抽出した。抽出した各遺伝子について、患者由来腸上皮オルガノイド及び患者由来腸組織を用いて蛍光免疫染色法等により蛋白発現や組織内の発現分布等について検討を行った。この結果、1)4つの遺伝子について患者由来大腸上皮オルガノイドにおける発現を確認した。2)各遺伝子について、通常のオルガノイド培養環境において、杯細胞を含むヒト大腸上皮に発現し得ることが確認された。3)一方、同条件で患者由来大腸組織を用いて検討を行った場合には、蛍光免疫染色法で発現を確認することは困難であった。以上の結果より、ヒト近位・遠位大腸上皮に一定の発現特異性を有する遺伝子群の同定・選定に成功する一方、同遺伝子に由来する蛋白の杯細胞を含む大腸上皮における発現については、大腸上皮オルガノイドの培養環境(増殖因子・細胞外マトリックス等)に依存した発現調節機構が関与している可能性が示された。同機構の同定や杯細胞分化との関わりに関する詳細の解明等が今後継続して取り組むべき研究課題の一つと考えられた。
|