研究課題
本課題では、肝疾患における肝発癌・病態進展に関わる宿主およびウイルス要因を明らかとするとともに、それに基づいてヒトiPS細胞におけるin vitro解析系を構築し、機能解析を進めることを目的として研究を進めた。肝癌切除例を対象として、半導体シークエンサーを用いて癌関連54遺伝子2910箇所のHotspotに対してdeep sequenceを、TERT promoter領域のhotspotは direct sequenceを行い、肝細胞癌関連遺伝子プロファイルを網羅的に解析した。ウイルス性・非ウイルス性や、ウイルス制御の有無、および背景肝の違いによる発癌要因の差異について検討した。HCV関連肝癌では、HCV持続感染状態における発癌と、HCV排除後の発がんとでは遺伝子のプロファイルに差はなかった。一方、HBV関連肝癌では、核酸アナログによるHBV制御下の発癌例ではTERT promoter領域の変異は低頻度で、HBV integrationの発癌への関与が示唆された。TERT promoterは線維化の程度に関わらず高率に遺伝子変異が認められたことに対し、CTNNB1変異はF0では少なく(p=0.04), TP53変異はF4で少ない傾向であった。また、F0を背景として発症した肝細胞癌はそのほとんどが非B非C型で、TERT promoter変異は背景肝F0症例の肝細胞癌においても高率に認めており、発癌過程に重要と考えられた。F0など線維化軽度例ではHBV既往感染例においてHBV integrationを有する症例が存在し、発癌への関与が示唆された。これらの知見に基づき遺伝子改変ヒトiPS細胞を樹立し、病態解析モデル構築の基盤が得られた。さらに生体の発生過程を模倣する形でヒトiPS細胞から間葉系細胞への独自の分化誘導法を開発し、細胞間相互作用を解析するin vitroモデル作成の基盤を構築した。
2: おおむね順調に進展している
ウイルス制御下の発癌やF0を背景として発症した肝細胞癌における遺伝子プロファイルを明らかとすることができ、その情報を基にヒトiPS細胞における遺伝子改変を進めることができた。またヒトiPS細胞から間葉系細胞への分化誘導法を独自に構築することができた。肝病態を解析するモデル構築の基盤形成を進めることができた。
肝癌の遺伝要因を解明するために、症例集積によるさらなる解析を進める。これらの遺伝情報を基に、通常の培養細胞とヒトiPS細胞における遺伝子改変を進め、肝病態をin vitroで解析するための基盤を構築する。さらに、肝細胞と間葉系細胞との相互作用を解析しうるモデル、および肝オルガノイドモデルの開発を進める。本研究ではこれらを統合的に推進することで肝病態形成機構・肝発癌機構の全容解明に関わる知的・技術的基盤の確立を目指す。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件) 図書 (4件)
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