研究課題/領域番号 |
19H03637
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
中本 安成 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (40293352)
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研究分担者 |
平松 活志 福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 准教授 (30646849)
野阪 拓人 福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 助教 (70748441)
山下 太郎 金沢大学, 附属病院, 准教授 (90377432)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 肝細胞がん / がん幹細胞 / 循環腫瘍細胞 / シングルセル解析 / 創薬シーズ |
研究実績の概要 |
本研究では、肝がん患者において治療耐性を誘導するがん幹細胞様クローンを同定するとともに制御法を開発することを目的としている。そこで、肝がん患者の分子標的治療や化学療法中に、血液中の循環腫瘍細胞(CTC)を液体生検し、CTCのシングルセル解析からがん幹細胞様クローンの特性について検討した。 1)肝がん患者末梢血からのCTC液体生検: これまで我々は患者末梢血からのCTC採取にマイクロキャビティアレイ技術を用いてきたが、システム内の微小流路基板に捕捉されたCTC単一細胞を回収することには難点があった。この回収過程では、Trypsin EDTA処理や遠心法と顕微鏡下単一細胞ピッキング手法などを組み合わせたり、種々の試みを施行したが、生細胞率を保ってCTCを回収することはできなかった。 そこで、新たなフィルター技術を導入してCTCの回収に取り組んだ。本法は、患者末梢血を溶血処理後に、細胞用フィルター(ScreenCellTM)と遠心法を用いてCTCを回収する方法であり、さらに最先端のセルソーター技術を組み合わせるによってシングルセルレベルで解析、分取することが可能となった。 2)シングルセル解析~がん幹細胞様クローンの選択: セルソーターでの解析において、多重蛍光染色を行うことによりCTC単一細胞の様々な特性を解析することが可能であった。肝がん患者における動注化学療法の経過においては、末梢血中にCK(+)CD45(-)CTC細胞数の変動を認め、幹細胞マーカー(EpCAM, Vimentin, CD90, CD133)の中でも、とくにEpCAMやCD90発現細胞の割合が治療効果と関連していた。 これまでがん幹細胞におけるEpCAMは腫瘍形成能、CD90は転移能との関連が示唆されており、本結果は肝がんCTCと治療耐性を考察する上で意義深い成果と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、2019年度は1)-2)が計画されていた。ほぼ予定通りに進捗しているが、今後はさらなる2)の継続による発展と、3)がん幹細胞性を誘導する責任遺伝子の機能的スクリーニング、の開始が計画されている。おおむね順調に進行しているものと考えられる。2)において継続中の計画は以下のごとくである。 2)シングルセル分子解析~がん幹細胞様クローンの選択: 1)のCTC単一細胞から得られたcDNAを用いて、次世代シーケンサーによる分子解析を行う(NGS:MiSeq)。 a. mRNA発現解析(RNA-Seq):これまで肝細胞のがん化研究で有意な変動を示す2,486遺伝子を対象とする(RankProd FDR<0.05 & Log2比>1 or <-1)。これらのライブラリー作成を行い、プロモータを含む各ゲノム領域をバーコード法によるターゲットリシーケンシングを行う。 b. 原発巣由来の変異解析:CTCが肝がん細胞に由来することを確認するために、肝がん原発巣の遺伝子変異情報と比較する(p53, hTERT, beta-Catenin)。 c. EMT・幹細胞マーカーによる細胞クローンの選択:c-1)上皮マーカー(E: EpCAM, CK8/18/19)、間葉マーカー(M: Vimentin, Twist)、および白血球マーカー(CD45)の発現レベルによってCTCの上皮間葉転換(EMT)の程度を評価する。c-2)臨床経過において、がん転移と高い相関を示すEMTマーカーの発現や、幹細胞マーカー(CD133, EpCAM, CD90等)のレベルからCTC幹細胞様クローンを選択する。 d. がん幹細胞様クローンのバイオインフォマティクスデータ解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、今後は1)-2)に加えて以下3)の研究を予定している。 3)がん幹細胞性を誘導する責任遺伝子の機能的スクリーニング: 2)において選択された責任候補遺伝子について、以下の機能的な検討を行う。 a. in vitro評価系: 肝がん細胞株(HepG2,HuH7, Hep3B等)に候補遺伝子のsiRNA/shRNAライブラリー(384遺伝子siGENOMETM)やゲノム編集CRISPR/Cas9系を用いてEMTや幹細胞性の誘導を観察する。a-1) EMT誘導能:EMTマーカーの発現変化をRNA(PCR法)や蛋白(ELISA)にて検討する。a-2) 薬剤耐性、アポトーシス:分子標的薬、化学療法薬の濃度変化による細胞死をCell Counting Kit-8やTUNEL、Annexin Vにて定量する。a-3) 細胞増殖:MTSアッセイ、ソフトアガ-法、コロニー形成、スフェロイド形成。a-4) 浸潤活性:Matrigel-coated 8.0 μm filterチャンバー。a-5) 細胞周期:propidium iodide(PI)染色、cyclin D1・CDK発現;Western Blot法。 b. in vivo評価系(非臨床試験): 肝がん転移モデルを用いる。b-1) 肝がん転移モデル:申請者らは肝がん細胞株(BNL、Hepa1-6等)を同系マウス(BALB/c、C57BL/6)の尾静脈、門脈あるいは脾臓に注入することによって、肝臓、肺への転移系を確立している。b-2) 候補遺伝子の操作:合成アンチセンスオリゴ、siRNA、RNA aptamerを導入して遺伝子発現をノックダウンする手法が開発されている。b-3) がん転移の制御能評価:マーカー遺伝子GFPを導入した肝がん細胞株を投与後、1週間ごとに肝臓、肺にみられる転移巣の数とサイズを定量する。
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