研究課題
わが国で肝細胞癌の発症要因として最も多いC型肝炎ウイルス(HCV)感染症の治療は飛躍的に進歩し、ウイルス排除が可能となった。しかし、HCV排除後の肝発癌が問題となっており、そのリスク因子である肝線維化の制御は重要な課題である。本研究では新たな治療法の開発を目指して、①HCV排除後の肝発癌に関連するリスク因子である、Tolloid-like 1(TLL1)による新たな肝線維化メカニズムの解明、②肝細胞特異的ヒトTLL1高発現マウス系統の樹立と肝臓特異的マウスTll1欠損マウスの作製および解析、③コラーゲン遺伝子発現を制御するマイクロRNA-X(miR-X)標的分子の同定とその制御機構の解明、④マイクロRNA(miRNA)送達脂質ナノ粒子の実用化を目指した製剤検討、を行い、新規の肝線維化・肝発癌メカニズムやマイクロRNAによる直接的・間接的な標的分子の制御を明らかにする。令和元(2019)年度は、miR-Xが細胞内の主要なシグナル伝達経路のリン酸化を抑制することを明らかにした。肝細胞特異的hTLL1高発現マウス系統を樹立し、TLL1の肝発癌における影響を検討した。また、mTll1 floxマウスとmTll1 Tgマウスも作製した。miRNA導入については、siRNAをモデル核酸としてマイクロ流体デバイスiLiNPによるsiRNA搭載脂質ナノ粒子(LNP)製造時の諸条件を検討した結果、肝臓への核酸送達に適したLNPの製造条件を見出した。
2: おおむね順調に進展している
miR-XはTGFβ刺激によるコラーゲン遺伝子の発現を強力に抑制する。肝星細胞株LX-2を用いたWestern Blot解析の結果、miR-XはTGFβ受容体直下のSmadタンパクのリン酸化は阻害しないが、細胞内の主要なシグナル伝達経路であるAKT、ERK、JNKのリン酸化を抑制することが判明した。これらの分子のうちJNK阻害剤をLX-2に添加した群でコラーゲン遺伝子発現が抑制されたことから、miR-XはJNKの上流に作用することが明らかとなった。肝細胞特異的hTLL1高発現マウス系統を樹立し、TLL1の肝発癌における影響を検討するため、コリン欠乏高脂肪食を11ヶ月間与え、肝発癌の有無を調べた。その結果、発癌は♂TLL1陰性個体で9匹中1匹、♂TLL1陽性個体で8匹中5匹に見られ、♀TLL陰性個体で9匹中2匹、♀TLL1陽性個体で4匹中2匹に見られた。また、TLL1陽性個体では陰性個体に比べて血清中のAFP量が上昇しており、コリン欠乏高脂肪食摂取後4ヶ月目で有意な差を認めた。さらにmTll1 floxマウスとmTll1 Tgマウスの作出も行った。miRNA導入システムについて、miRNAと類似の構造を有するsiRNAをモデル核酸とし、マイクロ流体デバイスiLiNPによるsiRNA搭載脂質ナノ粒子(LNP)製造時の諸条件を実験計画法により検討した。その結果、LNPの粒子径、siRNA搭載効率に影響に与える因子を同定し、肝臓への核酸送達に適したLNPの製造条件を見出した。
miR-XがJNKのリン酸化を抑制する詳細な分子メカニズムを解明するため、RNAseq解析を行う。新規分子が同定された場合、それを標的とした創薬を目指す。mTll1遺伝子のコンディショナルノックアウトマウス作出を進めており、現在までにmTll1遺伝子をCreリコンビナーゼ標的配列loxPで挟んだfloxedマウスの作成に成功している。今後、Creリコンビナーゼを発現しているマウス(CAG-MerCreMer、Alb-Cre)とTll1 floxマウスの交配を続けてmTll1遺伝子を特異的にノックアウトしたマウスを得、TLL1の機能解析を進める予定である。さらに、胆管特異的Cre(CK19-Cre)、血管内皮特異的Cre(Flk1-Cre)を準備してTll1 floxマウスを交配し、組織特異的なCreを準備する。初年度に見出したLNPの製造条件の範囲を基に、複数のsiRNA搭載LNPを製造し、肝実質細胞における標的遺伝子発現効率を指標として最適なLNPを同定する。また、血液学的パラメータにより、同定したLNPの安全性を評価する。
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Hepatology Communications
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