研究課題
食事の欧米化による接種カロリーの増加や運動不足などからメタボリックシンドロームの増加が世界的に予想される。肝臓では脂肪が過剰に蓄積する脂肪肝やそれに伴う炎症などが、メタボリックシンドロームの症状として知られている。本研究では、Bcl6下流シグナルが脂肪酸蓄積量や蓄積される脂肪酸組成の変化の制御を通じて非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などの病態に影響を与えるという新しい仮説を検証するために以下の研究を遂行する。1. NASH肝癌発症過程における肝内脂肪酸の蓄積量の調整メカニズムの解明2.NASH肝癌発症過程における肝内脂肪酸プロファイルの制御メカニズムの解明3. NASH様肝障害・肝硬変を再現するin vitroミニ肝臓組織の構築Bcl6下流シグナルの解析から肝臓内の脂肪酸の量や質を制御できるマウスモデルを構築しNASH病態解析を行うことで、メタボリックシンドロームによる臓器変性の鍵となる肝内のシグナル伝達機構を同定する。また遺伝子改変ヒトiPS細胞由来肝細胞を用いたミニ肝組織を構築しin vitroでのNASH様肝障害の誘導系を構築する。本年はBcl6の肝臓特異的強制発現系を構築し、Bcl6の下流に肝臓での脂質の蓄積などを誘導するシグナル経路があることを明らかにした。肝臓特異的なプロモーターを持つアデノ随伴ウイルスにBcl6遺伝子を導入し、ウイルスを作成・腹腔注射することで、肝臓に効率的に遺伝子を導入・発現させた。その結果、Bcl6によって肝臓への脂質の過剰蓄積・肝傷害が誘導できることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
肝臓への特異的遺伝子導入系を開発し、Bcl6の機能を同定するなど順調に推移している。
1. NASH肝癌発症過程における肝内脂肪酸の蓄積量の調整メカニズムの解明通常食またはCDAHFD食(NASH誘導食)を負荷したマウスの両方で、肝臓特異的Bcl6欠損によって血中の総コレステロール量やHDLコレステロール量が病的な値ではないものの上昇することを見出している。血中コレステロール量は腸管等からの吸収と肝臓における合成・放出等のバランスにより一定に保たれている。つまりBcl6欠損が肝臓におけるコレステロールの吸収・合成や放出を変化させることで、肝臓内の蓄積脂質量が低下する仮説の検討を行う。前年までの研究で、アデノ随伴ウイルスを用いたBcl6の肝臓特異的強制発現系を構築した。これを用いてBcl6の強制発現を行った結果、Bcl6の肝臓内の誘導により速やかに肝傷害と肝臓への脂肪蓄積を誘導することを見出した。そこで、Bcl6により直接発現が制御される遺伝子群と肝臓の脂質代謝の関連を解析する。2. NASH様肝障害・肝硬変を再現するin vitroミニ肝臓組織の構築Bcl6やその下流分子(SCD1, Elovl3等)を欠損させたヒトiPS細胞を作製する。ヒトiPS細胞由来肝細胞を96well-非吸着培養皿で培養することで自己凝集を誘導し、高機能なヒトin vitroミニ肝組織を作出可能なことを既に見出している。前年までの研究で、ヒトiPS細胞由来肝前駆細胞にいくつかの転写因子を導入することで肝機能などをより誘導できることを見出した。そこで、パルミチン酸等の脂肪酸の過剰添加環境で培養する。これらの処理によってミニ肝組織細胞内の脂肪酸プロファイルがどう変化するのか、さらに細胞増殖や細胞死、間葉系細胞の活性化による細胞外マトリクス沈着への影響を解析する。さらにヒトiPS細胞でのゲノム編集による遺伝子抑制系などを用いた解析を行う。
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