当研究室では、肝機能関連転写因子群の網羅的探索結果から、肝臓の脂肪酸代謝の制御因子としてBcl6を同定している。Bcl6を肝臓特異的に欠損させることで、食事誘導性の脂肪肝炎や腫瘍形成を抑制できることを明らかにしている。そこで、Bcl6下流で肝臓の脂肪酸代謝、特に肝内脂肪酸の質や量を変化させる分子メカニズムを解明することを目的とした。Bcl6肝特異的欠損マウス肝臓における網羅的発現解析の結果から、Bcl6制御下にある転写因子や脂肪酸代謝関連因子を複数同定した。これらがBcl6による脂肪肝炎の病態制御に関係するか解析する系として、本研究ではアデノ随伴ウイルスを用いてin vivoマウス肝臓特異的にゲノム編集酵素発現誘導することで、多重遺伝子のin vivo迅速遺伝子欠損誘導系を構築した。この系を用いて、Bcl6下流遺伝子のスクリーニングを行った結果、特定の遺伝子の組み合わせを欠損させることで脂肪肝炎の病態が変化することを見出している。今後、Bcl6下流で脂肪肝炎の増悪化に関連する遺伝子の同定を進める。 また、ヒトiPS細胞由来肝細胞培養系を用いて脂肪肝炎のin vitro再現系の構築を行った。培養系に過剰の脂肪酸を添加することで、ヒトiPS由来肝細胞における過剰な脂肪蓄積を誘導できた。しかし、この状態では細胞死が誘導されないことから、単純性脂肪肝と脂肪肝炎との差を反映するように、細胞死誘導のためには別のストレスが必要と考えられた。そこで、脂肪の過剰蓄積と共同して細胞死を誘導するストレス刺激のスクリーニングを行っている。
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