研究実績の概要 |
腹部大動脈瘤(abdominal aortic aneurysm, AAA)の危険因子は男性・喫煙・脂質異常症などの動脈硬化性因子であるが、その治療法は近年のステントグラフト内挿術(血管内治療術)の普及により、かつての開腹人工血管置換術に比して著しい低侵襲化が進んだ。一方、TAAおよび胸部大動脈解離(Thoracic aortic dissection, TAD)も、大動脈破裂や突然死を引き起こす致死的疾患であるが、AAAとは対照的にその発症は遺伝的素因に依るところが大きく、これまで、FBN1,ACTA2, MYH11, MYLK, TGFB2, TGFB3, TGFBR1, TGFBR2, SMAD3, PRKG1等の遺伝子変異が報告されている。胸部大動脈瘤(Thoracic aortic aneurysm, TAA)は、依然として内科的根治療法のない致死性疾患である。降圧以外に有効性の証明された治療薬は無く、瘤拡大評価と手術適応判断を定期的に繰り返すのが現状である。また、経過観察中に急速に進行して瘤破裂を来す症例も依然として多く、新たな病因蛋白の探索と根本的治療薬開発が求められている。東北大学病院・循環器センターはTAAの手術実績を多数有し、長年、基礎研究とその臨床応用研究を行ってきた。我々は、ライブラリー化した患者由来の大動脈組織や大動脈血管平滑筋細胞(TAA-AoSMCs)を用いて網羅的オミックス解析を行い、候補遺伝子・新規病因蛋白のスクリーニングを行い、新規病因分子SmgGDSを発見した。このSmgGDS は伸展刺激センサー分子であることを突き止め、SmgGDSをTAA-AoSMCsにおいて欠損させることにより、世界初のTAAモデルマウスの開発に成功し報告した。以上の知見に基づき、全く新しいTAAの早期診断技術開発とアカデミア創薬が期待される。
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