研究課題
心不全は、心臓の中心的な構成要素である心筋細胞の機能的な破綻により生じる。我々は、心不全モデルマウス・心不全患者の心筋シングルセルRNA-seq解析により心筋細胞の分類を行い、心筋細胞は肥大型状態を経て代償型・不全型の細胞に分岐することを明らかにし、各細胞状態を前に進めるシグナルを同定した。そこで、不全型の心筋細胞を正常型・肥大型・代償型に逆戻りさせることができれば、心不全の本質的な治療法として確立できると考えた。この仮説を検証するためには、細胞状態を規定する因子を同定し、細胞状態を規定する内的・外的要因を解明し 、明らかとなった制御機構を利用した心筋リプログラミングの可能性を検証する必要がある。本研究の目的は、心筋細胞状態を規定する因子・ 内的外的要因を同定して、心筋リプログラミングによる心不全治療法を開発することである。(1)CRISPR/Cas9とシングルセルRNA-seqの統合による網羅的遺伝子ノックアウト機能解析:2019年度には、ライブラリスケールのCRISPR/Cas9により個々の細胞に異なったgRNAを誘導して遺伝子ノックアウトを行い、シングルセルRNA-seqでその影響を解析する技術を開発した。(2)エピゲノム解析による内的要因の解明:2019年度には、100-1000細胞からエピゲノム情報を取得する技術CUT&RUN(Skene et al. Nat Protoc. 2018)を心臓組織を用いて解析する基盤技術を構築した。(3)シングルセルRNA-seq情報を用いた細胞間相互解析:2019年度には、シングルセルRNA-seqから重要な細胞間相互作用を抽出する技術を確立し、心筋・非心筋細胞の間の相互作用を包括的に解析し、心臓線維芽細胞から心筋細胞へと誘導されるTGF-betaシグナルが心筋細胞の老化を誘導していることを明らかにし、投稿論文の作成に至った。
1: 当初の計画以上に進展している
当初予定していた基盤技術の確立だけでなく、シングルセル細胞間相互作用解析から同定した心筋細胞老化誘導メカニズムに関する論文作成に至ったため。
(1)CRISPR/Cas9とシングルセルRNA-seqの統合による網羅的遺伝子ノックアウト機能解析心筋特異的Cas9発現マウスに解析対象遺伝子群を標的とするgRNAライブラリをアデノ随伴ウイルスAAV9により心筋特異的にdeliverすることで、この技術を心臓網羅的遺伝子機能解析システムへと発展させることができた。2020年度には、2019年度に作成した複数のgRNAを用いて機能解析を進める。(2)エピゲノム解析による内的要因の解明2020年度には、確立したCUT&RUN法を用いてエピゲノム解析により上流転写因子を同定し、(1)の機能解析へと繋げる。(3)シングルセルRNA-seq情報を用いた細胞間相互解析2020年度には、これまでに同定された心臓線維芽細胞と心筋細胞の相互作用を端緒として、心臓内に存在する細胞間相互作用を網羅的に捉えることを目指す。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 6件、 招待講演 11件) 図書 (6件) 産業財産権 (2件) (うち外国 1件)
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