研究課題
心不全は、心臓の中心的な構成要素である心筋細胞の機能的な破綻により生じる。我々は、心不全発症において心筋細胞が肥大型状態を経て代償型・不全型の細胞に分岐することを明らかにし、各細胞状態を前に進めるシグナルを同定した。そこで、不全型の心筋細胞を正常型・肥大型・代償型に逆戻りさせることができれば、心不全の本質的な治療法として確立できると考えた。本研究の目的は、心筋細胞状態を規定する因子・ 内的外的要因を同定して、心筋リプログラミングによる心不全治療法を開発することである。(1)CRISPR/Cas9とシングルセルRNA-seqの統合による網羅的遺伝子ノックアウト機能解析:2020年度には、ノックアウトする遺伝子に対するgRNAライブラリを構築して網羅的遺伝子ノックアウトを実現し、心不全病態の解析に応用した。(2)エピゲノム解析による内的要因の解明:マウス心臓から単離した心筋をCUT&RUNによってエピゲノム解析を行う技術を確立し、不全心筋に特徴的なPARP1などの局在を同定するに至った。(3)シングルセルRNA-seq情報を用いた細胞間相互解析:2020年度には、シングルセルRNA-seq解析によって心臓線維芽細胞から心筋細胞へと誘導されるTGF-betaシグナルが心筋細胞の老化を誘導していることを明らかにして論文を投稿した。また圧負荷によって血管内皮細胞で複製ストレスから老化誘導が生じることを見出し、心筋細胞との相互作用を解析している。また細胞間相互作用を組織で検証するためのシングルセル分子病理解析技術を確立した。(4)心筋リプログラミングによる心不全治療法の開発:心筋肥大を制御する転写因子をシングルセルRNA-seqおよびエピゲノム解析によって同定し、その因子を心不全期に心筋で過剰発現させることで心臓が肥大形質を取り戻して心臓機能が回復することを見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
最終年度に達成する予定であった「心筋リプログラミング因子」を2年目に同定できたこと、さらに当初の計画を超えて、細胞間相互作用を組織で検証するためのシングルセル分子病理解析技術を確立できたことが理由である。最終年度は、その心筋リプログラミングの分子機序の解明をさらに進めて予定以上の成果を挙げることを目指す。
(1)CRISPR/Cas9とシングルセルRNA-seqの統合による網羅的遺伝子ノックアウト機能解析:2021年度には、本システムによって心筋細胞規定因子を同定するのみならず、心筋リプログラミング因子のスクリーニングにも応用する。(2)エピゲノム解析による内的要因の解明:2021年度には、同定された心筋リプログラミング因子がいかに心筋エピゲノムを書き換えるかを明らかにする。(3)シングルセルRNA-seq情報を用いた細胞間相互解析:2021年度には、心臓内皮細胞と心筋細胞の相互作用を解析するとともに、細胞間相互作用をバイアスなく解析して心不全誘導に関する機序を明らかにする。また確立したシングルセル分子病理解析によって心不全を構成する組織細胞の相互作用・シグナル伝播の様子を詳細に明らかにする。(4)心筋リプログラミングによる心不全治療法の開発:心筋リプログラミングの過程において遺伝子発現・エピゲノムがいかに書き換わるかの分子機序を解明する。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 10件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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