研究課題/領域番号 |
19H03653
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山下 智也 神戸大学, 医学部附属病院, 准教授 (90437468)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 代謝物 / 心不全 / 心房細動 / 大動脈瘤 / 大動脈解離 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、循環器疾患(心不全/心房細動/動脈硬化性疾患[動脈瘤/大動脈解離])の発症における腸内細菌叢の役割・因果関係を調査し、関連メカニズムを解明して、新規の治療標的を探索することである。可能な範囲で、(1)臨床研究でのヒト糞便中の腸内細菌叢と疾患との関連を調査すること (2)マウス疾患モデルでの解析や腸内細菌への介入治療を実施して、有用性の有無を作用機序の解明をめざす。臨床研究と基礎研究(動物実験)の融合研究で進めていく中で、臨床応用できる新規治療標的・治療法を探索する。 2020年度内に、心房細動と腸内細菌叢の解析結果を報告した。心不全患者の腸内細菌メタゲノム解析と血液メタボローム解析による代謝物の調査でも、心不全で上昇するトリメチルアミンNオキシド(TMAO)の血中濃度に相関する腸内細菌遺伝子CntA/Bを見出し、その増加に関連する菌を特定して、論文投稿中である。 さらに、アミノ酸を含めて複数の腸内細菌と関連する介入可能な代謝物も同定できており、解析を進めて報告する予定である。 動脈瘤患者での腸内細菌叢解析は、他施設との共同研究で実施しており、腸内細菌メタゲノム解析結果が得られる予定である。一方、動脈瘤マウスモデルは確立できており、抗生物質投与実験により動脈瘤が抑制できることを確認し、腸内細菌が病態の増悪に関連している単球細胞の分化に関連していることがわかってきた。 臨床研究にて動脈瘤関連腸内細菌がわかれば、それに対しての介入を動物実験で実施する方針である。 大動脈解離マウスモデルに関しては、BAPN(β-aminopropionitrile)+アンギオテンシンII投与モデルが確立できており、抗生物質(腸内細菌の除菌)の効果の検証や腸内細菌を用いた介入実験を実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
すでにいくつかの論文を発表しており、投稿中・準備中も複数あるので、予定以上の進捗と言える。 しかし、ヒトでは発症以前にはわからない疾患であったり、ヒトの病態を再現できる良い疾患モデル動物が存在しないなど、臨床研究・動物実験の両者をともに実施困難な疾患もあり、臨床・基礎融合研究の限界が存在することを自覚している。なので、当初の目標としていた計画は(達成可能な範囲で)予定より早期に達成できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
心不全の臨床研究では、複数の代謝物の変化と関連する腸内細菌も明らかにできた。心不全マウスモデルへの介入実験をするべく、HFpEFと呼ばれる収縮不全の無い拡張障害心不全マウスモデルの確立を目指し研究を進めている。このタイプの心不全は、長期予後を介入する治療薬が存在せず、臨床において大きな問題となっており、その解決法が模索されている。しかし、これまでに確立したとする報告、さらにそれを変化させて動物モデルの確立を目指したが、HFpEFマウスモデルは確立できていない。現状では、終了の方針。 心房細動研究では、いくつかのコントロール患者との差異のある腸内細菌を同定したが、介入にて治療効果が期待できそうな菌は同定できなかった。動物実験モデルに関しても、現状では適切なモデルは存在しないので、腸内細菌と心房細動研究に関しては終了とした。 動脈瘤マウスモデルの実験を進め、腸内細菌叢の変化を調査する。除菌の効果は検証できており、本年度は動脈硬化予防菌として同定しているBacteroides vulgatusとdoreiを経口や腸内に投与して動脈瘤の抑制効果の有無を検証する。共同で実施する臨床研究にて、ヒトの動脈瘤関連腸内細菌が判明した段階で、その菌種に治療介入する実験を実施する。 大動脈解離マウスモデルに関しては、動物実験で菌への介入を実施していく。臨床研究は、発症後にて様々な手術治療や薬剤投与などの要素が関係しているので、実施の意義を再検証して、現状では実施しない方針とした。動物実験で明らかに発症に関連する候補菌を見出すことができれば、臨床検体での検証を実施する可能性はある。 実験結果によっては、新規介入標的となる腸内細菌やその代謝物を見いだすことができれば、大きく展開をかえる必要性があると考えている。
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