急性心不全の発症病態の1つとして急性の後負荷に対する不適合(afterload mismatch)が以前より広く認められているが、その分子機序は明らかではない。また、急性心不全の75%は慢性腎臓病(CKD)を合併しており、CKD合併心不全において一番多い急性心不全の病態はafterload mismatchである。申請者らは、独自に開発したCKDモデルマウスに後負荷刺激した時に、特異的に発現低下するLong non-cording RNA X(LncRNA X)を発見し、このLncRNA Xの低下がafterload mismatchに関与している予備実験結果を得ている。また、急性心不全の原因の一つである、タコツボ症候群(TTS)の発症にβアドレナリン受容体(βADR)の活性化とそれに引き続いて生じるβADRの脱感作が関与していることを世界で初めて患者検体を用いて証明した。本研究では、afterload mismatchの発症に、心臓と血管のβADR系の脱感作(心筋の収縮性の低下と血管の収縮を引き起こす)が関与しているかを検討した。そのために、βADR系の脱感作に関するキー分子であるG蛋白質共役型受容体キナーゼ2(GRK2)に着目し、研究を進めた。すなわちTTS発症過程でGRK2が細胞膜上のβADRに結合し、シグナル伝達を抑制していることを見出していたため、AAVベクターを用いて血管内皮特異的にGRK2を過剰発現するマウスを作製した。GRK2過剰発現マウスではベースラインの血圧が低値であるばかりか、カテコラミン刺激による血圧上昇が野生型マウスに比較して極めて高度であった。以上のように本研究ではafterload mismatchによる急性心不全の病態を再現することができ、afterload mismatchの発症機序にβADRの脱感作が関与していること証明した。
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