研究実績の概要 |
止血、血栓形成に特化した血小板細胞はトロンビンなどによる刺激により活性化する。活性化後、GPIIb/IIIa細胞外ドメインの高次構造と生化学性質の変化が大きく変化する。血小板活性化に伴うGPIIb/IIIa細胞外ドメインの活性型構造への変化には、細胞内ドメインへのTalin, Kindlin などの接着斑タンパクの結合が必須である。しかし、細胞内環境のわずかな変化が細胞外ドメインの大きな鉱造変化を惹起するメカニズムは未知である。 2019年度には、学内スーパーコンピューターとしてXeon Phi 4ノードを追加した。学内コンピューター上にGPIIb/IIIaを構成する全ての原子と水分子を配置したGPIIb/IIIa基盤モデルを作成した。細胞外ドメインとしてはX線結晶構造解析の結果を参照した。細胞膜貫通ドメイン、細胞内ドメインはNMRなどと矛盾しないモデルとした。モデル作成後、ソフトウエアNAMDを用いて分子動力学計算を開始した。Zeon Phi上にて2フェムト秒ごとのGPIIb/IIIaを構成する全ての原子と水分子の座標と速度の変化を50,250,000ステップ計算した。すなわち、初期構造から約100ナノ秒後までの構造計算を2019年度に試行した。初期構造がエネルギー的最安定構造であるか否かを判断するためには、最低でも100ナノ秒の追加計算が必要である。以前にはスパコン「京」など国内の少数施設において可能であった膜糖蛋白の細胞内ドメイン・膜貫通ドメイン・細胞外ドメインの連成モデルを個別施設内コンピューターにて可能としたのは2019年度の大きな成果であった。 細胞内ドメインのTRY747とPRO999の間の距離をエネルギー的安定構造の約20オングストロームから、約80オングストロームに広げたときの細胞外ドメインの構造変化の計算を行う環境も2019年度の研究により準備できた。
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