研究課題
我々はこれまでに喘息やCOPDの多様性に着目し、種々のフェノタイプ特異的なゲノム網羅的疾患関連解析を実施し複数の新規疾患感受性遺伝子を明らかにしてきた。個々の感受性遺伝子変異のオッヅ比は極めて小さく、多数の遺伝因子がネットワークを形成することで個々のエンドタイプを構築していると考え、喘息やCOPDの根幹に存在するエンドタイプとして、アレルゲン感作のみならず、ウイルス易感染性、肺の成長障害、気道や皮膚のバリア障害、などの複数のエンドタイプが重要であることを報告してきた。特に本研究ではライノウイルスの受容体であるCDHR3遺伝子と小胞体ストレス応答に関連するORMDL3遺伝子に着目し、遺伝子相互作用、さらには遺伝子発現ネットワークといった視点からエンドタイプにアプローチする。いずれの遺伝子も小児発症喘息の原因遺伝子として知られているが、これらの分子ネットワークと関連するフェノタイプを明らかにすることで喘息やCOPDといった病名で疾患を理解し予防・治療することの限界を明らかにし、エンドタイプに基づいた精密医療に繋げる。これまでの検討によって、CDHR3遺伝子とORMDL3遺伝子との間には、喘息発症において有意な遺伝的交互作用を認めず、相加的に小児期発症喘息のリスクに遺伝的影響を与えていた。CDHR3遺伝子の遺伝的影響はアトピー遺伝リスクスコアと有意な交互作用を示した。一方で、ORMDL3遺伝子の喘息発症への影響はアトピー遺伝リスクスコアとは独立して観察された。今後は本研究で同定された機能的分子ネットワークが強く関与する喘息フェノタイプの同定を試みる。さらにCOPD集団における、同分子ネットワークの意義についても検討を加える。
3: やや遅れている
昨年度は、喘息発症におけるCDHR3遺伝子及びORMDL3遺伝子と交互作用する遺伝因子について新たにGWASタイピングを実施した集団(筑波GWASコホート2)において網羅的な検討を実施したが、①筑波GWASコホート2の約1200名のGWASタイピングに予想以上に時間がとられた、②筑波GWASコホート2におけるCDHR3遺伝子と交互作用をする遺伝子の網羅的解析の結果と既に両遺伝子と網羅的な交互作用の解析が終了している筑波GWASコホート1における網羅的な検討結果とを併せたメタ解析を行うための準備に予想以上の時間がかかっている、の2点から研究の進行が予定よりも遅れている。具体的には、筑波コホート1のGWASプラットフォームと、コホート2のプラットフォームが異なるため、ジェノタイプインピュテーションが必要となるが、データサイズが大きく、計算に使うコンピューターの容量が圧迫されてしまい時間がかかっている。ゲノムレベルでのインピュテーションを試みると同時に、現在はコホート1で有意な影響が認められた遺伝子群の近傍領域のインピュテーションを優先させながら、メタ解析を進めている。
本年度は、昨年度の結果を踏まえ、喘息発症におけるCDHR3遺伝子及びORMDL3遺伝子と交互作用する遺伝因子について新たにGWASタイピングを実施した集団(筑波GWASコホート2)において網羅的な検討を行う。既に両遺伝子と網羅的な交互作用の解析が終了している、筑波GWASコホート1における網羅的な検討結果と併せたメタ解析を行い、CDHR3遺伝子及びORMDL3遺伝子のそれぞれと有意に交互作用する遺伝子から機能的な分子ネットワークを抽出し、ネットワークを構成する複数の遺伝子情報に基づいた遺伝子リスクスコアを構築する。喘息集団において同遺伝子リスクスコアを因子として組み込んだクラスター解析を実施し、我々が同定した機能的分子ネットワークが強く関与する喘息フェノタイプの同定を試みる。さらにCOPD集団における、同遺伝子リスクスコアの意義についても検討を加える。
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