研究課題/領域番号 |
19H03665
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
矢野 聖二 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (30294672)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子標的薬 / 抵抗性 / 肺がん / EGFR変異 / IGF-1R / 転写因子 / FOXA1 / AXL |
研究実績の概要 |
本研究では、がん細胞が分子標的薬に曝露された際に適応・順応するメカニズムを解明し、それを防ぐことにより死滅させ、根治を目指す治療法の非臨床研究基盤の確立を目的としている。すでに、EGFR変異肺がんにおいてEGFR阻害薬であるオシメルチニブに低感受性群はAXL受容体の活性化により適応・順応することを明らかにしている。今年度は、オシメルチニブ高感受性群であるAXL低発現 EGFR変異肺がんがオシメルチニブに適応・順応するメカニズムについて研究を行い、次のような成果を得た。 AXL低発現のEGFR変異肺がん細胞にオシメルチニブを曝露した際、チロシンキナーゼ型受容体であるIGF-1Rの発現が上昇し、その結果リン酸化も増強されることを見出した。その下流分子としてはERKやAKTの関与が示唆された。次に、siRNAによるIGF-1Rの発現抑制によりオシメルチニブの感受性が増強することを確認し、IGF-1Rが確かに適応・順応に関与していることを明らかにした。オシメルチニブによりIGF-1R発現が増強する機構として、転写因子FOXA1の発現が誘導された結果IGF-1Rの転写が促進されることを見出した。 さらに、IGF-1R阻害薬(Linsitinib)を併用することでAXL低発現EGFR変異肺がん細胞株のオシメルチニブの感受性を増強できることをin vitroの培養系で示した。また、AXL低発現EGFR変異肺がん細胞株であるHCC4006を免疫不全マウスの皮下に移植したCDX (Cell line Derived Xenograft)モデルや患者腫瘍移植(PDX:Patient-derived xenograft)モデルにおいて、IGF-1R阻害薬の10日間併用によりオシメルチニブ中止後も腫瘍が消失し再増大しないことを見出した。 以上の結果から、AXL低発現のEGFR変異肺がんに対してはIGF-1R阻害薬を短期間オシメルチニブに併用することで、治癒または著明な抗腫瘍効果の増強が得られる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初の計画通り1)分子標的薬曝露時の標的および下流分子の再活性化状況の評価(EGFR変異肺がん株)、2)分子標的薬曝露時に活性化されてくる受容体の適応・順応への関与の同定、3)IGF-1Rを活性化する機構の解明、4)CDXモデルにおけるオシメルチニブ+IGF-1R阻害薬併用の治療効果の検討、5)EGFR変異肺がんのPDXにおけるオシメルチニブ+IGF-1R阻害薬併用の治療効果の検討を実施し、すべてにおいてポジティブな結果が得られており、順調に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
現在、2019年度の研究内容をまとめた論文がNature Communications誌にreviseになっており、再投稿に必要な追加実験を鋭意行っている。また、今年度は当初計画の通り、下記の研究を行う方針である。 1)分子標的薬曝露時に抵抗性を惹起する受容体発現の機構解明(EGFR変異肺がん株):EGFR変異肺がん細胞株のうち、オシメルチニブに極めて高い感受性を示す高感受性群ではAXL以外の受容体(IGF-1R)の発現が上昇することを見出している。さらに、IGF-1R受容体の発現を上昇させる転写因子FOXA1を同定した。今年度は、オシメルチニブ曝露により転写因子の発現が上昇する機構を明らかにする。 2)分子標的薬暴露時の標的および下流分子の再活性化状況の評価:ALKあるいはNTRK融合遺伝子陽性がん細胞株を用い、それぞれの分子標的薬に曝露時に抵抗性を惹起するシグナル伝達経路をリン酸化アレイ法やWestern blot法で同定する。 3)分子標的薬抵抗性を惹起する因子の制御機構解明:ALKおよびNTRK融合遺伝子陽性肺がん株における分子標的薬抵抗性を惹起する因子が誘導される分子機構を明らかにする。さらに、それらの阻害薬を同定する。 4)皮下移植モデルにおける分子標的薬と抵抗性阻害薬の併用効果の検討:ALKあるいはNTRK融合遺伝子陽性がん細胞株を免疫不全マウスに皮下移植したモデルにおいて、分子標的薬と抵抗性阻害薬の併用により分子標的薬感受性が改善されるか否かを検討する。
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