分子標的薬に曝露されたがん細胞は、一部が抵抗性細胞として生存し後に増殖を可能にする耐性因子を獲得して耐性腫瘍を形成する。また、併存する遺伝子異常が分子標的薬の感受性を低下させることが報告されてきている。本年度は、日本人におけるALK融合遺伝子陽性肺がんのデータを解析し,ALK融合遺伝子陽性肺がん症例の25%にTP53の変異があり、変異型ではALK阻害薬の無増悪生存期間が短いことを明らかにした。次に,TP53変異を有するALK融合遺伝子陽性肺がん株ではALK阻害薬によるアポトーシスが惹起されがたいために抵抗性となることを明らかにした。さらに、プロテアソームにより分解されるアポトーシス促進蛋白質Noxaをプロテアソーム阻害薬で蓄積させることにより、ALK阻害薬によるアポトーシスを誘導し耐性を克服しうることを明らかにした。 また、ALK阻害薬にさらされたALK融合遺伝子陽性肺がん細胞では、STAT3が活性化され抵抗性細胞を生じる要因になっていること、STAT3阻害薬を併用することで抵抗性細胞の発生を抑制しALK阻害薬の効果を増強できることを明らかにした。一方、NTRK1融合遺伝子陽性がん細胞はTRK阻害薬に感受性を有するが、NTRK1-G595R変異により耐性を獲得することが知られている。TRK阻害薬エヌトレクチニブに対し獲得耐性となったNTRK1融合遺伝子陽性がん細胞はNTRK1-G595RとMAPK経路の活性という2つの機序により耐性を獲得していること、TRK-G595Rにも有効な次世代TRK阻害薬とMEK阻害薬およびEGFR阻害薬の3剤併用が最も耐性克服効果が強いことを明らかにした。
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