研究課題
肺動脈性肺高血圧症(PAH)のうち基礎疾患が明瞭でない症例の3割前後に、BMPR2遺伝子及びその他の遺伝子変異を併せた遺伝的背景が認められるが、残りの特発性症例の発症原因は未解明である。我々を含め多くが原因究明に採用する全エキソーム解析は効率的だがスプライシングや転写制御領域は十分に解析できない。これらの同定にはトランスクリプトームの解析が必須である。本研究では最新の遺伝子変異検出法を応用し、PAHでスプライシング異常や発現異常を起こす変異の網羅的探索が達成されるか、結合組織病や先天性心疾患に合併するPAHにおいて新たな原因/感受性遺伝子や合併の有無を分ける遺伝的背景が存在するのか、について検証する。さらに、これら疾患の遺伝的背景の全容を解明し、統合的な遺伝子診断カタログを作成し、情報共有化・発症予防法/早期発症予知法の開発に繋げ、臨床的貢献を目指す。これまでの実績として、PAHの家族発症家系を対象とした解析から、TNFRSF13B遺伝子がPAHの新規発症原因遺伝子であることを発見した。また、RNF213遺伝子がPAHのみでなく多臓器の難治性血管病に共通した原因遺伝子であり、この遺伝子変異に基づく一連の血管病がRNF213関連血管病として新しい包括的疾患概念の提唱に繋がることを見出した。RNF213遺伝子の血管病誘発変異は、日本を含む東アジア人に多い創始者変異であり、欧米からのエビデンスを待つのではなく、日本から独自に研究を推進していく必要があることも判明した。
2: おおむね順調に進展している
検体収集・検体を用いたゲノム解析等の解析・解析結果の臨床情報との関連性の検討等がおおむね順調に進展しており、研究実績としての成果も出ている。
引き続き検体収集を継続する。さらに、全エキソームとトランスクリプトームのデータを用いて、SAVNet解析システムによって、従来の解析で発見できなかったスプライシング及び発現異常の原因となる遺伝子変異を網羅的に検出する。また、我々の保有するバイオバンク試料のさらなる全エキソーム・トランスクリプトーム・SAVNet解析システムによる解析によって、先天性心疾患/結合組織病合併PAHに関与する遺伝的変異を、スプライシングや発現異常に関する変異等を含めて網羅的に探索する。さらに、最新日本人ゲノムレファレンスデータを利用したimputation法も駆使し、疾患関連領域の同定と疾患関連遺伝子の探索、さらにスプライシング変異等も含めた網羅的解析を目指す。特に極めて稀な変異のみならず、一般集団で比較的高頻度の多型的な変異にも注目し感受性遺伝子の探索を目指す。以上の研究成果を集約し、肺高血圧症の遺伝子診断カタログ作成を達成するよう取り組む。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
J Am Heart Assoc
巻: 10 ページ: e019245
10.1161/JAHA.120.019245