研究課題/領域番号 |
19H03673
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
河内 裕 新潟大学, 医歯学系, 教授 (60242400)
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研究分担者 |
葛谷 聡 京都大学, 医学研究科, 准教授 (30422950)
福住 好恭 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (20609242)
松井 克之 帝京大学, 医学部, 教授 (20256027)
内許 玉楓 新潟大学, 医歯学系, 助教 (00529472)
安田 英紀 新潟大学, 医歯学系, 助教 (00806490)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 蛋白尿 / ネフローゼ症候群 / ポドサイト / スリット膜 / NHERF2 / EphrinB1 / Neurexin |
研究実績の概要 |
各種シナプス関連分子(SV2B, Neurexin, Ephrin-B1)がポドサイトに発現していること、その分子機能の低下が蛋白尿発症に関与していることを明らかにしてきた。Ephrin-B1は細胞外部でNephrinと結合していることを報告しているが、Ephrin-B1の細胞質部での結合分子は不明であった。今年度は、Ephrin-B1並びにその裏打ち分子として同定したNHERF2についての検討を中心に行った。次世代シーケンサを用いた探索でNHERF2がEphrin-B1の関連分子であることを見出し、免疫沈降法による検討でNHERF2はそのPDZ領域でEphrin-B1のC末部と結合していることを明らかにした。また、NHERF2はEzrinを介して細胞骨格と連結していることを明らかにし、Nephrin-Ephrin-B1-NHERF2-Ezrin-Actinの新たな分子連関機構を同定し、NHERF2のノックダウン系を用いた検討で、この分子連関がポドサイト機能維持に極めて重要な役割を果たしていることを明らかにした。またスリット膜細胞外部のNephrinが刺激を受けると、Nephrin, Ephrin-B1はリン酸化、NHERF2、Ezrinは脱リン酸化し、その結果この分子連関が瓦解し、各分子がバラバラになることを確認した。また、この際NHERF2はスリット膜が感知した刺激を細胞膜頂部に伝える役割を果たしていることも明らかにした。この報告はスリット膜刺激が細胞頂部に伝わる経路についての最初の報告である。 Ephrin-B1の機能解析に並行して、臨床応用に向けた研究を進め、Ephrin-B1はスリット膜障害時、尿中に漏出し、スリット膜障害に起因する病態把握のための重要な尿中診断マーカーとなることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度はNeurexin についての検討を中心に行い、2年目はEphrin-B1、並びにその裏打ち蛋白として同定したNHERF2についての検討を中心に行った。NHERF2はポドサイト頂部の膜蛋白であるPodocalyxin結合分子として報告されている分子であるが、本研究で、Ephrin-B1とも結合性があることを明らかにした。またNHERF2はEzrinを介して細胞骨格と連結していることを明らかにした。これまでの検討でEphrin-B1は細胞外部でNephrinと結合していることを明らかしており、一連の検討で“Nephrin-Ephrin-B1-NHERF2-Ezrin-Actin”の新たな分子連関機構を同定し、この分子連関はポドサイト機能維持に極めて重要な役割を果たしていることを明らかにした。またスリット膜刺激によりこの分子連関が瓦解し、各分子がバラバラになることを確認した。また、NHERF2はスリット膜が感知した刺激を細胞膜頂部に伝える役割を果たしていることも明らかにした。この新規分子連関機構についての研究成果はAm J Pathology誌に報告した。Ephrin-B1の機能解析に並行して、診断マーカーとしての有用性の検討を進め、Ephrin-B1はスリット膜障害に起因する病態検出の有用な尿中マーカーとなることを見出し、特許出願した。 本研究課題での基礎研究の成果を2年連続して病理学領域のトップジャーナルであるAm J Pathology誌に報告したこと、臨床応用に向けた検討成果としてEphrin-B1の診断マーカーの有用性を特許出願したこと、シナプス関連分子の治療標的としての有用性の特許が令和2年9月に認可されたことから、本研究課題は当初の研究計画以上に進展していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討でNeurexin、Ephrin-B1がともにスリット膜関連分子でその機能低下がネフローゼ症候群発症に関与していることを明らかにしてきた。今後の主な研究課題は、(1)NeurexinとEphrin-B1、そしてスリット膜のバリア機能維持の主要分子であるNephrinとの関係(結合性の有無、結合サイトの同定)を進め、Neurexinの機能、病態形成における役割、治療標的としての有用性についての検討を中心に研究を進める。Neurexinは多種のsplicing variantを持ち、それが組織特異的機能の重要であることが報告されている。過去2年間の本プロジェクトで、ポドサイトでは主にNeurexin1-αが発現しており Neurexin1-βの発現はほとんどないこと、ポドサイトで主に発現するNeurexin1-αのsplicing variantはSS4(+)型であることを明らかにした。今年度はNeurexinのSS4サイトの機能についての検討を進め、シナプスでの主な発現型であるSS4(-)型との機能の違いを解析する。具体的には、SS4サイトとスリット膜関連分子との結合性の検討を行い、スリット膜構造維持におけるSS4(+)、Neurexinの役割を解明する。(3)臨床応用に向けた取り組みとして、本研究で新たに同定した分子であるNHERF2並びにSS4(+) Neurexin1-αなどの分子の、ネフローゼ症候群病態モデル(腎組織、尿材料)、臨床材料(主に尿材料)での発現を解析し、これら分子群のネフローゼ症候群の予後鑑別、病勢把握のための新規診断法の標的分子としての有用性、新規治療標的としての有用性を明らかにし、臨床応用に向けた基盤研究を進める。
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