研究課題/領域番号 |
19H03676
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
福本 誠二 徳島大学, 先端酵素学研究所, 特任教授 (30202287)
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研究分担者 |
沢津橋 俊 徳島大学, 先端酵素学研究所, 特任准教授 (70535103)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 線維芽細胞増殖因子23 / リン / 線維芽細胞増殖因子受容体 |
研究実績の概要 |
低リン血症は骨石灰化障害を特徴とするくる病や骨軟化症の、逆に高リン血症は異所性石灰化の原因となる。従って、血中リン濃度は厳密に調節されている必要がある。我々は、線維芽細胞増殖因子23(fibroblast growth factor 23: FGF23)が、骨により産生され、腎臓などに作用することにより血中リン濃度を低下させるホルモンであることを報告してきた。FGF23は、KlohtoとFGF受容体(FGF receptor: FGFR)複合体に結合することにより、作用を発揮する。FGF23遺伝子の転写、翻訳により産生されるFGF23蛋白の一部は、Arg-X-X-Arg配列を認識する酵素により切断され、不活性なペプチドに分解される。このFGF23蛋白の切断は、GALNT3遺伝子産物であるGalNAc-T3により阻害される。逆にリンは骨におけるFGF23産生を調節するものと想定されるものの、その機序は不明であった。我々は、in vivoおよびin vitroの検討により、血中リン濃度の上昇がFGFR1の活性化を介してGalnt3発現を促進し、FGF23蛋白の切断阻害からFGF23の血中濃度を上昇させること、従ってFGFR1が生体のリン感知機構の少なくとも一つとして機能していることを明らかにした。この過程で骨特異的FGFR1ノックアウトマウスを作成した。野生型マウスでは、高リン食によりFGF受容体1を介する系によりGalnt3発現が亢進し、FGF23の切断が抑制され血中FGF23濃度が上昇する。一方骨特異的FGFR1ノックアウトマウスでは、Galnt3発現促進やFGF23濃度の上昇が認められなかった。そこで本研究では、骨特異的FGFR1ノックアウトマウスのより詳細な表現型を解析すると共に、FGF受容体が他の臓器においてもリン感知機構となっているかどうかを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FGF23は、骨、特に骨芽細胞や骨細胞により産生されると考えられている。そこで骨芽細胞~骨細胞に発現するosteocalcin-CreマウスとFGFR1フロックスマウスを交配することにより、骨特異的FGFR1ノックアウトマウスを作成した。FGF23の標的臓器である本マウスの腎臓では、FGFR1の発現は低下していないのに対し、骨ではFGFR1の発現が減少していることを確認した。コントロールマウスに比較し本マウスは、低FGF23血症、高リン血症を示した。このことは、骨におけるFGFR1がFGF23産生調節や高リン血症の発症予防に必須の役割を果てしていることを示している。一方、生下時の骨特異的FGFR1マウスの頭尾長や体重、大腿骨長、および大腿骨骨密度は、コントロールマウスと異ならなかった。このことから、骨におけるFGFR1は、発生時には必須ではないものと考えられた。また成長に伴う骨特異的FGFR1ノックアウトマウスの体重増加は、22週齢まではとコントロールマウスとの間で有意差を認めなかったものの、23週齢以降有意に低下していた。さらにカプランマイヤー法により生存率を評価したところ、骨特異的FGFR1ノックアウトマウスはコントロールマウスに比して有意に短命であることが明らかとなった。FGF23ノックアウトマウスやKlothoマウスは、高リン血症や異所性石灰化に加え、寿命の短縮を示すことが報告されている。一方、低リン食飼育などでこれらのマウスの高リン血症を改善すると、大部分の表現型が消失する。従って、骨特異的FGFR1ノックアウトマウスで認められた高リン血症により生存率の低下が惹起されたこと、骨のFGFR1によるリン感知、FGF23産生調節が生命の維持にも貢献していることが明らかにされた。
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今後の研究の推進方策 |
FGF受容体1ノックアウトマウスの生存率の低下の原因を明らかにするために、各組織の組織像を検討する。特にFGF23ノックアウトマウスやKlothoマウスは異所性石灰化を示すことが明らかにされていることから、心臓や腎臓の異所性石灰化の有無を詳細に検討する。このマウスの検討に加え、リンによる軟骨細胞のアポトーシスや副甲状腺ホルモン分泌促進にもFGFR1が関与しているのかどうかを検討する。さらに、FGF23の過剰活性によりX染色体顕性低リン血症性くる病(X-linked hypophosphatemic rickets: XLH)や常染色体顕性低リン血症性くる病などの低リン血症性くる病・骨軟化症が惹起される。このうちXLHは、最も頻度の高い低リン血症性くる病の原因疾患である。本症の原因遺伝子はポジショナルクローニングにより同定され、phosphate-regulating gene with homologies to endopeptidases on the X chromosome(PHEX)と名付けられた。しかし、PHEX蛋白の機能は明らかにされていない。XLH患者では、低リン血症にもかかわらずFGF23が高値を示すことから、生体のリン感知機構に異常が存在するものと想定される。そこでXLHのモデルマウスであるHypマウスを用い、FGF23過剰産生の機序を検討する。Hypマウスオスヘミ接合体、メスヘテロ接合体とホモ接合体、三つの遺伝子型のモデルマウスを用い、これらのマウスの血中リンやFGF23濃度を測定すると共に、骨におけるFGF23発現を免疫組織染色で検討する。これにより、Phex遺伝子変異によるFGF23過剰産生が、cell-autonomousなものであるのかどうかが明らかになる。さらにin vitroでPHEX蛋白とFGFR1との関連を検討することにより、PHEXがFGFR1機能に影響を及ぼすかどうかを検討する予定である。
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