皮膚は、体型変化に伴い表面積を変化させるが、それを担う表皮幹細胞の制御機構は不明である。我々は、急速に拡張する妊娠マウスの腹部皮膚において、表皮幹細胞を由来とする増殖性の高いTbx3陽性の基底細胞を同定した。Tbx3+基底細胞は周囲の細胞にADAM8の発現を誘導し、EGF-EGFR-ERKシグナルを活性化することで表皮増殖クラスターを形成することが分かった。また、真皮では血管新生が誘導され、血管に依存してTbx3+基底細胞と表皮増殖クラスターが出現することが明らかとなった。この血管依存的なTbx3+基底細胞の出現・維持機構は、張力負荷による皮膚伸展時や創傷治癒時にも機能すること、また、新陳代謝の高い足底部皮膚では体表血管が発達しており、Tbx3+基底細胞と表皮増殖クラスターが恒常的に機能していることが分った。 本年度は、Tbx3+基底細胞から分泌される表皮増殖クラスター誘導因子について解析を行った。野生型と表皮特異的Tbx3cKOマウスの妊娠期における腹部皮膚表皮のRNAseq解析により、Pyyペプチドの発現量がTbx3cKOマウスで顕著に低下していることが分った。また、腹部表皮のscRNAseq解析によりTbx3+基底細胞に高く発現する遺伝子を同定した結果、表皮分化遺伝子と共にPyyも同定された。さらに抗Pyy抗体を用いた組織染色により、妊娠期の腹部表皮においてPyyタンパク質の存在量が増加することを確認した。さらに、人工合成したPyyペプチドを皮内投与した結果、表皮基底細胞の増殖が促進され、表皮増殖クラスターの形成も誘導された。このことから、Tbx3+基底細胞はPyyを分泌することにより、表皮増殖クラスターを誘導することが分った。以上の結果を論文にまとめ発表した。
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