研究課題/領域番号 |
19H03687
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
菊繁 吉謙 九州大学, 医学研究院, 講師 (40619706)
|
研究分担者 |
赤司 浩一 九州大学, 医学研究院, 教授 (80380385)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 白血病幹細胞 / アミノ酸代謝 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、従来の白血病幹細胞研究に新規高感度メタボローム解析を組みこむことでヒト急性白血病(AML,ALL)に共通する幹細胞性維持機構解明に取り組む。申請者はヒトCD34+AML,ALL細胞およびCD34+正常造血幹前駆細胞の代謝産物測定系の樹立をすでに行っており、ヒト急性白血病(AML,ALL)に共通する代謝特性として分岐鎖アミノ酸(BCAA)代謝経路の恒常的活性化が生じていることを見出している。PDXモデルを用いた先行研究のデータからは、マウス食餌中BCAA制限のみで、ヒトAML,ALLのin vivoにおける幹細胞性維持機構が強力に低下することを見出している。その分子メカニズムについても、ESやiPS細胞等の種々の幹細胞において未分化性維持に必須のエピジェネティクス制御因子であるPRC2の機能をBCAA代謝が直接制御している可能性を見出している。本研究課題では、これらのデータを基盤としてより詳細な解析を行い、BCAA代謝がヒト急性白血病の幹細胞性維持を制御する分子メカニズム解明に取り組み、AML,ALLに共通する新規治療標的導出のための基盤となる研究になることを目的とする。本年度は、先行研究のデータベースに基づきBCAA代謝経路の下流でヒト白血病幹細胞特異的なエフェクター経路の同定に取り組んだ。また、さらに実際のBCAA代謝経路のダイナミクスを評価するために同位元素を用いた代謝フラックス解析を行うことで、BCAA代謝下流でAML/ALLに共通の代謝特性解析に取り組み、新しい知見を得ることができた。これらの研究を通して、ヒト急性白血病がその幹細胞性、未分化性維持のために特異的に利用するBCAA代謝経路の解明を進めることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度の進捗状況として概ね順調に進捗しているものと考えられる。先行研究で得られたBCAA代謝経路の下流で作用するエフェクター分子群としてPRC2を同定し、その中でもEZH2, EED, SUZ12という3つのコアコンポーネントの発現がBCAA代謝活性によって、転写レベルから制御されることを見出した。さらに興味深いことに、これらPRC2コアコンポーネントの制御は他の必須アミノ酸代謝経路、あるいは急性白血病治療薬として確立されたL-asparaginase等の他のアミノ酸代謝経路阻害、あるいはrapamycin等のmTORC1阻害によっては全く生じずに、BCAA代謝経路に特異的に依存していることを見出した。また、当初の研究計画に従い13Cにより標識されたロイシンを用いたSILAC実験を行い、ヒト急性白血病がアクティブにBCAAを細胞内に取り込み分解して利用していることを見出した。さらに取り込まれたロイシンはTCAサイクル及び非必須アミノ酸合成に強く寄与していることが認められた。特に非必須アミノ酸合成経路を介してヒト急性白血病細胞におけるα-ketoglutarate産生を正に制御することでBCAA代謝経路全体として、α-ketoglutarateを枯渇させることなく、絶えずBCAAの利用、分解を行うユニークな代謝サーキットがあると考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
令和2年度は以下の点に重点的に注目して研究を推進する。 1)ヒト白血病検体(AML/ALL)を用いたメタボロームデータベースの拡充を行い、BCAA代謝に加えて新規の白血病特異的な代謝特性の探索に取り組む。 2)ヒト急性白血病に共通するBCAA代謝の下流経路としてmTORC1経路及びミトコンドリア機能について検討を行う。これまでに得られているgene expression dataからは、BCAA代謝経路がミトコンドリアにおける酸化的リン酸化によるエネルギー産生に寄与しているデータが得られており、令和2年度はミトコンドリア機能の観点からも検討を行う。 3)ヒト正常造血幹細胞、前駆細胞を用いて急性白血病と同様のアッセイを行い、ヒト急性白血病と正常造血幹前駆細胞のBCAA代謝への依存度の違いについて検討を行う。これは、BCAA代謝を標的とした治療戦略を構築する上で重要な知見になると考えられる。 本年度はこれらの研究に中心的に取り組むことで、本研究課題の目的達成に取り組む。
|