研究課題
間質性肺炎とは、肺胞以外の肺を支える間質部分を中心とした炎症および激しい線維化を来す疾患であり、代表的自己免疫疾患であるリウマチ・膠原病疾患の予後を規定する。自己免疫による間質性肺炎は主に免疫抑制剤が使用されるがその効果はしばしば限定的であり、臨床の現場からは新規治療法の開発が強く望まれている。本課題ではエピゲノム解析手法を取り入れ、TGF-βを介する線維化促進という観点からアプローチを行い、マウスのみならず、ヒト末梢血を用いた機能解析を通じて、自己免疫性間質性肺炎の病態解明を行うことを目的としている。初年度(2019年度)は、線維芽細胞に対するTGF-βと複数の炎症性サイトカインの協調作用を、様々な刺激条件下においてin vitroで検証を行い、遺伝子発現及び培養上清中イムノグロブリンを指標とし確認をし、線維芽細胞におけるサイトカインシナジー効果におけるTGF-βの重要性を検証した。2020年度はここで得られた知見より、ヒト末梢血においてTGF-β遺伝子を特異的に高発現する新規effector memory CD4陽性T細胞サブセットの同定に成功した。同新規細胞サブセットは自己免疫性筋炎症例に合併した間質性肺炎における肺胞洗浄液中において著増しており、またsingle cell ATAC sequence手法を用いた網羅的オープンクロマチン領域解析を通じて、同新規細胞サブセットにおけるepigeneticなTGFB1の制御機構を明らかにした。これらの解析から同細胞のマスター制御遺伝子として複数の候補転写因子遺伝子を同定し、候補遺伝子のfloxedマウス作製を行い、CD4 Creマウスとの交配によりT細胞特異的なコンディショナルノックアウト(CKO)マウスの作製まで行った。
2: おおむね順調に進展している
初年度(2019年度)は、線維芽細胞を用いたin vitro実験を通じた炎症局所における病態の解析を行い、2020年度は、ヒト末梢血においてTGF-β遺伝子を特異的に高発現する新規effector memory CD4陽性T細胞サブセットの同定に成功した。また同年度中にヒト肺胞洗浄液中リンパ球のシングルセル解析手法の確立まで行った。さらに、同新規細胞サブセットは自己免疫性筋炎症例に合併した間質性肺炎における肺胞洗浄液中において著増していること、さらにシングルセルレベルでのエピゲノム解析(single cell ATAC sequence手法)を通じて同新規細胞サブセットにおけるepigeneticなTGFB1の制御機構を明らかにした。同解析から同細胞のマスター制御遺伝子として複数の候補転写因子遺伝子を同定し、モデルマウスの作製まで行い、当初の目標を達成した。
最終年度となる2021年度はこれらのマウス用いて、定常状態および間質性肺炎を誘導するブレオマイシン(BLM)投与条件などにおけるin vivoの評価を行う。また、2020年度に同定したヒト新規TGFB1発現細胞サブセットに相当するマウスサブセットの特異的マーカーの同定と機能検証実験も行う。さらに、マスター制御遺伝子としての候補遺伝子を発現するplasmid vectorを用いてヒトCD4陽性T細胞に強制発現させることで、ヒト免疫担当細胞における当該遺伝子の機能解析を行い、自己免疫疾患病態における肺線維症の病態形成メカニズムの解明を目指す。同様の検討をマウスにおいても行うことで、ヒトとマウスの異同の検証も同時に進める予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
J Autoimmun
巻: 116 ページ: 102547
10.1016/j.jaut.2020.102547.
J Autoimmun.
巻: 119 ページ: 102617
10.1016/j.jaut.2021.102617.