研究課題
IgG4関連疾患は、血清IgG4高値に加え、IgG4陽性の形質細胞浸潤による全身臓器の腫大と線維化を同時性・異時性にきたす、我が国で確立された新しい疾患概 念である。その病態には自己免疫の関与が示唆されてきたが未だ原因不明である。申請者らは、IgG4関連疾患の膵病変である自己免疫性膵炎において、その病因自己抗原がラミニン511であることを世界に先駆けて報告した。本研究は、IgG4関連疾患の各臓器病変における自己抗原を同定し、同疾患の全体像の病態解明と、自己抗体測定による診断法の確立、さらには病因に基づく新規治療開発を目指すものである。1) IgG4関連疾患の各臓器病変における新規自己抗原の同定:IgG4関連疾患の包括診断基準を満たす様々な臓器病変をもつ症例において、抗ラミニン511 自己抗体の有無を検討した。これまでにIgG4関連下垂体炎や、IgG4関連涙腺・唾液腺炎の症例において抗ラミニン511 自己抗体、およびラミニン511と結合するインテグリンファミリー分子に対する自己抗体は認められていない。2) マウスモデルを用いたIgG4関連疾患の病態解明:上記で集積したIgG4関連疾患症例の患者血清よりIgGを抽出し、マウスへの投与することによる自己抗体の有無について検討した。これまでに膵炎以外の表現系は認められていない。そこで、自己免疫性膵炎におけるラミニン511と結合するインテグリンファミリー分子に着目し、同分子のリコンビナントタンパク質をマウスへ免疫する実験系の解析を開始した。3)自己抗体測定によるIgG4関連疾患の新規診断法の確立:予備的な検討結果では、自己免疫性膵炎の診断において抗ラミニン511自己抗体は感度53.3%であった。
3: やや遅れている
本研究は、IgG4関連疾患の膵病変である自己免疫性膵炎において、その病因自己抗原がラミニン511であるという申請者らの発見に引き続き、IgG4関連疾患の各 臓器病変における自己抗原を同定し、同疾患の全体像の病態解明と、自己抗体測定による診断法の確立、さらには病因に基づく新規治療開発を目指すものである。IgG4関連疾患の各臓器病変は、下垂体、涙腺・唾液線、眼窩、副鼻腔、肺、心血管、肝胆膵、消化管、腎、後腹膜、前立腺など全身にわたるため、当初は診療科横断的に臨床情報なおよび血清検体の集積に難渋した。また、これまでの検討では、これまでに申請者らが同定したラミニン511以外には、自己免疫性膵炎において昨年度に同定された、ラミニン511と結合するインテグリンファミリー分子以外には新規自己抗原候補は発見されていない。これは自己免疫性膵炎とその他の IgG4関連疾患では自己抗原が異なる可能性を示唆するものかもしれない。
1) IgG4関連疾患の各臓器病変における新規自己抗原の同定:IgG4関連疾患の断基準を満たす症例をさらに集積し、各種のラミニンアイソフォーム蛋白質、インテグ リンファミリー蛋白質、あるいはこれらのプロセシング蛋白質のスクリーニングを継続する。2)マウスモデルを用いたIgG4関連疾患の病態解明:申請者らは、ヒトrecombinantラミニン511をマウスへ免疫すると、同マウスに抗ラミニン511抗体が産生 され、自己免疫性膵炎の診断基準を満たす膵病変が誘導されることを示した(Sci Transl Med. 2018;10:453)。本研究ではラミニン511と結合するインテグリンファミリー分子に着目し、上記のマウスモデルを用い膵臓の組織障害・炎症誘導・線維化について検討を行う。3)自己抗体測定によるIgG4関連疾患の新規診断法の確立:抗ラミニン511自己抗体についてはは、感度は当初の予測と同等であったが、特異度の改善が必要と考えられた。今後は健常人や他疾患において抗ラミニン511自己抗体の偽陽性率を低下し得る条件について検討を進める。また、ラミニン511と結合するインテグリンファミリー分子についても、ELISA法による自己抗体の測定法を確立する。4)自己抗原の同定による病因に基づいた新規治療の開発:これまでの結果より、自己抗体によるラミニン/インテグリン結合の阻害が病因である可能性が考えられたため、これらを評価できる実験系の確立を進める。
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