研究課題/領域番号 |
19H03701
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
児玉 栄一 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (50271151)
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研究分担者 |
菊地 晴久 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (90302166)
浅井 禎吾 東北大学, 薬学研究科, 教授 (60572310)
林 宏典 東北大学, 医学系研究科, 助教 (00752916)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ウイルス / 薬学 / 感染症 / 天然物 / 化学合成 |
研究実績の概要 |
本研究は、全く新しい骨格を持つ化合物ライブラリーと革新的スクリーニング法を開発、それらを駆使し既存薬と一線を画す新たな作用機序を有するヒット化合物の網羅的探索を目的とした。令和元年度の主な3つの研究成果概要を次に示す。(1) 糸状菌二次代謝産物の生合成経路の改変・再設計による新規擬天然化合物ライブラリーを構築した。糸状菌ゲノム解析の進展により糸状菌が合成する二次代謝産物の設計図が明らかとなった。令和元年度は、ゲノム情報を基に外来遺伝子導入による糸状菌二次代謝産物の生合成経路の改変・再設計を行った。得られた新規化合物の抗ウイルス活性を測定、HIV-1に対してウイルス抑制効果を発揮する化合物の同定に成功した。(2) アデノウイルス (AdV) に対する抗ウイルス効果を迅速・簡便に測定する実験系を構築した [Antivir Chem Chemother. 2020]。結膜細胞に感染したAdVは流行性角結膜炎 (EKC) の原因となる。これまで結膜細胞感染AdVに対する抗ウイルス活性の測定には、ウサギの眼球を使用していたが本手法ではヒト結膜細胞由来の実験用細胞株、CRL11516細胞を用いており従来の手法に比して簡便・迅速かつ高いコストパフォーマンスを実現しただけでなく動物愛護の観点からも有用な成果となった (論文作成中)。(3) 薬剤耐性菌 (AMR) に有効で既存の抗菌薬と異なる作用機序をもつ新規抗菌薬候補化合物を同定した。細菌内の核酸代謝経路を標的とし、in vitroで細胞毒性や既存の抗菌薬との交叉耐性を持たない核酸アナログだけでなく薬剤耐性遺伝子そのものを破壊しAMRを薬剤感受性菌に戻すという全く新しい作用を発揮する新規化合物の同定に成功した [ACS Infect Dis. 2019]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、ストレス環境下におかれた微生物により合成された「新規擬天然化合物ライブラリー」とこれまで申請者等が開発した種々の薬剤スクリーニング法を駆使し新たな生理活性物質の同定およびその作用機序解析を到達目標とした。 年度内に、新たに構築した疑似天然化合物ライブラリーを用いてHIV-1, HBV, HSVなど種々のウイルスに対する阻害剤スクリーニングを実施し、全く新しい基本骨格をもつ抗HIV-1剤を同定した。Time of addition法この化合物が抗ウイルス活性を発揮する作用点を追跡した結果、HIV-1遺伝子が宿主ゲノムに組み込まれた後からタンパク発現を行うまでの間に活性を発揮する可能性が示唆された。抗菌薬開発に関しては、東北大学の保有する薬剤耐性臨床分離株を使用して、AMRに高い効果を発揮し、既存の抗菌薬と全く異なる作用機序を持つ複数の化合物を見つけた。一部の化合物に関しては全ゲノム配列解析や薬剤耐性誘導試験を用いて詳細な検討を行い、その殺菌メカニズムがチミジン合成経路の阻害によるチミジン欠損死誘導であることを明らかにした。さらに、驚くべきことに我々の同定した抗菌物質の中に、AMRの薬剤耐性遺伝子を消失させ薬剤耐性菌を薬剤感受性菌に戻す効果を有するものが存在していた。この化合物の詳細な作用機序と標的タンパクに関しては解析中である。また、アッセイ系の構築については、新たにヒトアデノウイルス (AdV) に対する種々の化合物スクリーニング系構築に成功した。得られた成果に関しては国際誌に掲載済みまたは投稿中である。上述のように当初の目標に対して十分な成果を挙げたため研究進度は順調であるとの評価を下した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度以降は、これまで同様、疑似天然化合物ライブラリーの多様性向上を目的に、種々のストレス環境下でのエピゲノム制御や外部遺伝子導入による二次代謝産物生合成経路の改変・設計を継続する。さらに、構築した疑似天然化合物ライブラリーを用いてHIV-1, HBV, HSVなど既に我々が薬剤スクリーニング系を確立しているウイルスや薬剤耐性菌 (AMR) に対するヒット化合物の網羅的探索を行う。作用機序解析に関しては、令和元年度に同定した化合物群の中から特にAMRの薬剤耐性遺伝子を消失させる化合物にフォーカスし、トランスクリプトーム解析による詳細な作用機序解明や標的タンパク同定を目的とした研究を実施する。一方で、令和2年度から新たにウイルス種を拡大して創薬研究を開始する。例えばコロナウイルス (CoV) やRSウイルス (RSV) などの異なる「科」に分類されるウイルスも解析に加える。現在、パンデミックを起こし世界中で蔓延している新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) は、BSL4に該当するような高い致死性を持たないウイルスでもヒト-ヒト間で高い感染性を獲得した場合、人類の安全と衛生さらには社会経済までも脅かす存在になり得ることを証明した。今後、このような脅威の発生を防ぐためには、アウトブレイクやバイオハザードを適確にコントロールし、迅速診断、治療へと繋げる研究基盤の構築が不可欠である。この様な現状を鑑み、本研究で構築した疑似天然化合物ライブラリーから迅速に抗CoVおよびRSV薬をスクリーニングする実験系の確立と新規抗CoV及びRSV薬の同定を目指す。
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