研究課題/領域番号 |
19H03707
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
北村 忠弘 群馬大学, 生体調節研究所, 教授 (20447262)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グルカゴン / 糖尿病 |
研究実績の概要 |
2型糖尿病の高血糖の原因にグルカゴンの異常が関わっている可能性が指摘されてきた。実際に、申請者の予備検討でも糖尿病患者は空腹時の血中グルカゴン濃度の上昇と、糖負荷後のグルカゴン分泌抑制の障害が認められた。また、グルカゴンを分泌するα細胞には糖の輸送体としてGLUT1が発現していることが知られていたが、申請者はNa+と糖の共輸送体であるSGLT1も発現していることを見出した。さらに、糖尿病モデルマウスのラ氏島において有意にSGLT1の発現が増加し、GLUT1の発現が減少していることを確認した。従って、本研究ではα細胞特異的なSGLT1とGLUT1の遺伝子改変マウスを作製することで、これらのトランスポーターと糖尿病との関連を明らかにすることを目的としている。昨年度はまず、SGLT1 FLOXマウスとGLUT1 FLOXマウスを作製することに成功しており、本年度はこれらのマウスとGcg-Creマウスを交配し、グルカゴンなどの代謝パラメータの測定や各種負荷試験を行って表現系を解析し、さらに、これらのマウスに高脂肪高ショ糖食(HFHSD)で8週間飼育したり、遺伝性糖尿病マウスであるdb/dbマウスと交配させて、糖尿病を誘発させた際に、糖尿病が改善するのか、悪化するのかなどを検証していく予定である。成果によっては、α細胞におけるグルカゴン分泌調節メカニズムが明らかになるだけでなく、α細胞のSGLT1とGLUT1を標的とした、新たな糖尿病治療法の開発につながることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2型糖尿病の高グルカゴン血症のメカニズムについて、以下の3つの可能性がある。①インスリン分泌が低下することによるグルカゴン分泌抑制の破綻、②α細胞にインスリン抵抗性が生じたことによるグルカゴン分泌抑制の破綻、③α細胞自体のプライマリーな異常。申請者は③の可能性を強く示唆する予備実験の結果を得た。すなわち、糖尿病モデルマウスからラ氏島を単離し、遺伝子発現解析を行ったところ、有意にSGLT1の発現が増加し、逆にGLUT1の発現が減少していた。申請者の仮説では、GLUT1はグルカゴン分泌を負に制御し、SGLT1はNa+のα細胞内への取り込みによる膜電位の変化、Ca2+の流入を介してグルカゴン分泌を正に制御していると考えている。これを検証すべく、昨年度はCRISPR/Cas9法を用いてSGLT1遺伝子のexon2を挟む形でFLOX配列を挿入した遺伝子改変マウスを作製した。このマウスをGcg-Creマウスと交配することでα細胞特異的SGLT1ノックアウトマウスを作製し、糖負荷試験やインスリン耐性試験を行った際の代謝パラメータを解析していく予定である。次に、GLUT1に関してもやはりCRISPR/Cas9法を用いて、GLUT1 floxマウスの作製に成功しており、α細胞特異的GLUT1ノックアウトマウスを作製し、同様の解析を行っていく予定である。これらの当初予定していた解析を行うために必要な遺伝子改変マウスの作製は順調に進んでおり、本年度の研究に向けての準備も整っている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者が所属する研究所のゲノムリソースセンターとの共同研究で、CRISPR/Cas9法を用いてSGLT1遺伝子のexon2を挟む形でSGLT1 FLOXマウスの作製に成功しており、本年度はこのマウスをGcg-Creマウスと交配することで、α細胞特異的SGLT1ノックアウトマウスを作製し、糖負荷試験やインスリン耐性試験を行った際の代謝パラメータを解析する予定である。次に、作製したマウスに糖尿病を誘発した際の糖尿病の程度に変化が認められるか検証する。 一方、同じくCRISPR/Cas9法を用いてGLUT1 FLOXマウスの作製にも成功しており、本年度はこのマウスをGcg-Creマウスと交配させて、α細胞特異的GLUT1ノックアウトマウスも作製する予定である。上記と同様の負荷試験や代謝パラメータの解析を行い、さらにHFHSD飼育やdb/dbマウスとの交配も行い、糖尿病が悪化するかどうかを確認する。もし、申請者の仮説が正しければ、α細胞特異的SGLT1ノックアウトマウスはグルカゴンの過剰分泌が改善し、糖尿病病態は軽度にとどまるはずである。逆に、α細胞特異的GLUT1ノックアウトマウスの方はグルカゴン過剰分泌が増悪し、糖尿病状態も悪化すると予想される。本年度はこれらの仮説を検証したい。これらの検証結果から、α細胞のSGLT1の発現増加とGLUT1の発現減少がグルカゴンの過剰分泌を引き起こし、2型糖尿病の病態につながることが明らかとなれば、今後はα細胞のSGLT1とGLUT1が2型糖尿病の新たな治療標的となり、将来の糖尿病治療薬の開発につながる可能性が期待出来る。
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