研究課題
2019年度の計画とこれまでの検討において、DPYSL4 (Dihydropyrimidinase Like 4)およびGLS2(Glutaminase liver isoform)は、ミトコンドリアのスーパーコンプレックスと会合し、脂肪細胞および癌細胞におけるエネルギー代謝を調節する作用を持つことが明らかにされてきた。そこで、これらの蛍光タンパクとの融合発現ベクターを作製して、高解像度顕微鏡であるSTED顕微鏡を用いてそれらの生細胞での超複合体局在の可視化解析を検討した。その結果、DPYSL4およびGLS2のミトコンドリア内膜における呼吸鎖超複合体のⅠ・Ⅲ・Ⅳ complexとの会合を、細胞レベルではあるものの、観察することに成功した。また、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)については、I・III・IV(NDUFB8・UQCRC11・COX8) super-complexを中心に、超複合体の形成シグナルをFRETにて検出することが可能となった。現在、DPYSL4およびGLS1・2のアセンブリファクターとの定量化方法を樹立している。一方、Single Cell解析のデータベースを用いて、インスリン標的臓器におけるその発現細胞クラスターを検討してみると、インスリン標的臓器の中において、Hepatocyte・Adipocyte (mesenchymal stemを含む)・Skeletal muscleの単一細胞レベルでDpysl4の高い発現クラスターを認めた。これらの結果は、これまでのDPYSL4がミトコンドリアの高次機能制御を介して、肥満・糖尿病・がんの接点で作用することを裏付けているものであった。今後、Dpysl4およびGls1・2のコンディショナルKOマウスを用いた解析により、生体の臓器レベルでの解析が期待される。
2: おおむね順調に進展している
超高解像度顕微鏡であるSTED法は、生体ミトコンドリアの微細な内部構造(クリステ)を観察することができる非常にすぐれたtoolである。しかしながら、Dpysl4やGlsなどの新規のミトコンドリアアセンブリファクターが実際に、生細胞において超複合体との会合を可視化できるかどうかは、大きな障壁であった。蛍光タンパク融合発現システム(AcGFP/mCherry/DsRed/AmCyan fusion)とのベクター構築から、実際の細胞での発現、複雑な顕微鏡の操作において成功したことは大きな進捗である。さらに、FRETを組み合わせて各主要構成因子間距離情報を数値化することも成功したので、今後このシステムを応用して、因子間相互作用と空間的構造情報を定量評価することができるようになったことを鑑みると、実験の進捗状況は概ね順調である。さらに、2020年度の研究計画に向けての準備状況として、動物モデルの生体や臓器において解析することはとても重要な意義を持つ。そのマウスモデルの準備も順調に進んでおり、進捗は確実に進展している。
これまでに開発したシステムと知見に基づいて、Gls1(and/or)2-KOとDpysl4-KOマウス由来の組織と初代培養細胞(脂肪組織・肝臓・骨格筋)、及びヒト臨床検体(肥満脂肪組織)を利用した解析を実施する方針である。特に、ヒト肥満患者由来の脂肪組織/初代細胞・血清と糖代謝/サイトカインプロファイルとの相関解析を行う予定であり、Gls1(and/or)2-KOとDpysl4-KOマウスについては、加齢性変化/糖代謝/肥満関連プロファイル(経口糖負荷試験、インスリン負荷試験、糖新生評価等)による病態解析を実施する計画である。これらの研究の推進により、寿命や疾患特異的パラメータと密接に関わる因子を同定し、新しい診断・創薬標的を提示することが期待できる。この研究推進の方策は、超複合体の高次構造情報や代謝調節状態との関係性を組織レベルで明らかにし、ミトコンドリア高次機能制御に基づく「革新的創薬」開発のためのフローシステム確立を目指すことである。この結果、肥満―糖尿病―がん疾患の接点で機能する新たな制御メカニズムの提唱が可能となり、革新的な疾患の診断・治療法開発への応用に進展させる方策である。
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