研究課題
2020年度の大きな研究実績として、インスリン標的臓器である脂肪組織および肝臓組織を対象に、ミトコンドリア超複合体の構造的・構成的定量化情報と機能性の関連解析を中心に実施した。ミトコンドリアは約1200種のタンパクが存在するので、不安定な構成因子や代謝シグナル依存的な相互作用分子の同定を引き続き行う必要があった。さらに、インスリン標的臓器における組織を構築する細胞集団の多様性が大きな問題となった。そこで、シングルセルRNA-seq解析を行なった。マウス由来の肝臓組織とヒト由来の脂肪組織をコラゲナーゼで処理し、FACSでsortしたのち、chromium connectを用いてscRNA-seqを実施した。それぞれの組織において、組織マクロファージ、CD31陽性の血管、Col1A陽性の結合織・間質を含む約20の細胞集団クラスターに分離することが可能となり、bulk RNA-sqでは捉えることのできなかったクラスター分類とDEGsによるパスウェイ抽出に成功した。なかでも、高脂肪食負荷に応じて、ミトコンドリアシグナルと糖代謝制御の接点で鍵となるPGC1-1aや、新規のフェロトーシス経路の関与が明らかとなった。さらに、がんと生活習慣病の接点で機能するミトコンドリア呼吸鎖超複合体会合分子として、我々が同定したDpysl4・Gls1/2遺伝子改変マウスを作製した。臓器特異的にノックアウト可能であり。ミトコンドリア内膜におけるdpysl4およびgls1/22依存的なグルタミン代謝が、生活習慣病とがんの接点でどのように作用するかについて、現在解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
上述の通り、インスリン標的臓器における組織を構築する細胞集団の多様性が大きな問題となっていたが、それらを解決できるシングルセルRNA-seq解析を行なうことができた。その結果、進捗の困難が予想された不安定な構成因子や代謝シグナル依存的な細胞間の相互作用を評価できるようになり、進捗は概ね良好である。さらに、Gls1(and/o r)2-KOとDpysl4-KOマウスの作製に成功したことは、非常に大きな成果であった。これまでの知見をマウスの個体レベル・臓器レベルで検証可能な状況になっている。このように、2020年度進捗状況は、解析手法とマウスモデルの構築を達成したことにより、おおむね順調に進展している
今後の研究の推進方策として、特に2021年度は、これまでに作製したGls1(and/or)2-KOとDpysl4-KOマウスを用いた生体・個体レベルおよび臓器レベルでのフェノタイプ解析を行う。具体的には、Gls1(and/or)2-KOとDpysl4-KOマウスを用いて、糖代謝/肥満関連プロファイル(経口糖負荷試験、インスリン負荷 試験、糖新生評価等)による病態解析を行い、研究の着想に至った仮説を検証する(proof of concept)。また、Gls1(and/or)2-KOとDpysl4-KOマウス由来の単離した臓器や細胞をフル活用して、ミトコンドリア超複合体の構造的・構成的定量化情報と機能性の関連解析も合わせて行うことで、病態と想定分子機序との関係性を明らかにする。このように、Gls1(and/o r)2-KOとDpysl4-KOマウス寿命や生活習慣病フェノタイプ解析に関する研究を推進することで、病態メカニズムの関連性を明らかにし、その結果を超複合体の高次構造情報や代謝調節状態との関係性を組織レベルで確認する方策である。さらに、ヒト臨床検体(肥満脂肪組織)を利用した解析に発展させることで、ミトコンドリア高次機能制御に基づく「革新的創薬」開発のためのフローシステム確立を目指す方策である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 5件)
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