研究課題/領域番号 |
19H03710
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
谷澤 幸生 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (00217142)
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研究分担者 |
田口 昭彦 山口大学, 大学院医学系研究科, 助教 (20634744)
秋山 優 山口大学, 医学部附属病院, 助教 (90717547)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 膵β細胞 / インスリン / 脱分化 / 時計遺伝子 / サーカディアンリズム / E4BP4 / DBP |
研究実績の概要 |
【1】β細胞においては細胞ストレスによるβ細胞不全への脱分化・運命転換の役割とそのメカニズムについて探究している。マウスモデルではストレス応答に関連する分子であるTxnipに着目し、Wfs1・Txnipダブル欠損マウスを作成した。このマウスでは糖尿病の発症、β細胞脱分化の抑制が観察された。そのメカニズムを解析中である。 2型糖尿病合併膵疾患患者の切除膵を解析し、ヒトの2型糖尿病患者膵でもストレスマーカー分子の発現増加と比例してβ細胞脱分化が病期とともに増加し、機能的β細胞の消失に関与していることを証明した。β細胞の減少に伴い、α細胞が増加することも観察し、論文発表した。(Amo-Shiinoki K et al. JCI Insight. 2021 Jan 11;6(1):e143791, Fukuda T et al. Diabetes. Diabetes Care. 2021 Apr;44(4):1002-1011) 【2】出力系時計遺伝子であるDBP・E4BP4の肝細胞での代謝に関する役割を明らかにし、公表した(Matsumura T et al. Biochem Biophys Res Commun. 2021 Jan 1;534:415-421)。肝細胞でのE4BP4の過剰発現は肝でのインスリン抵抗性のみでなく、骨格筋でのインスリン抵抗性も惹起し、臓器間連関が認められた。 マクロファージでの役割を検討する中で、マクロファージ特異的にE4BP4を過剰発現するトランスジェニックマウスで、炎症性腸疾患からの回復が有意に促進されることを見いだし、解析を進めている。 【3】ヒトを対象とした臨床研究を実施し、ヒトでの糖・脂質代謝には明確に日内変動が存在し、時計遺伝子が関わることを示唆する知見を得て、論文作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膵β細胞においては細胞ストレスによるβ細胞不全への脱分化・運命転換の役割とそのメカニズムについて探究している。Wfs1欠損マウスにおいて小胞体ストレス、酸化ストレスのマーカーとともに耐糖能異常、インスリン分泌不全の進行に相関して膵内分泌細胞の膵ホルモンやPdx1, MafA, Ngn3など鍵となる転写因子の発現が低下し、β細胞の脱分化の進行がみられた。脱分化、一部、α細胞への再分化はLineage Tracingにより証明された。 ストレス応答に関連する分子であるTxnipに着目しており、Wfs1・Txnipダブル欠損マウスを作成し、糖尿病の発症、β細胞脱分化の抑制を観察した。そのメカニズムを解析中である。 2型糖尿病合併膵疾患患者の切除膵を解析し、ヒトの2型糖尿病患者膵でもβ細胞脱分化が病期とともに進行し、機能的β細胞の消失同時に、α細胞画像化することも観察した。 出力系時計遺伝子であるDBP・E4BP4の肝細胞での代謝に関する役割を検討している。肝細胞でのE4BP4の過剰発現は肝でのインスリン抵抗性のみでなく、骨格筋でのインスリン抵抗性も惹起し、時計遺伝子を介した臓器間連関を示唆する。さらにマクロファージでの時計遺伝子の役割について、マクロファージ特異的E4BP4過剰マウスを作出し、解析を進めている。 健常人(20-60歳)で耐糖能、インスリン分泌、インスリン感受性の概日変化についても解析を進めている。 このように研究成果を論文として公表することが出来、また、執筆中の論文もある。従って、研究は計画通り、ほぼ順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
膵β細胞においては細胞ストレスによるβ細胞不全への脱分化・運命転換の役割とそのメカニズムについての研究をさらに進めて行く。ヒトの2型糖尿病を含めて糖尿病のβ細胞不全に細胞ストレスによるβ細胞の脱分化・運命転換が関わることはモデルマウスを使った基礎研究およびヒトでの臨床研究からほぼ確実になったので、今後はその詳細なメカニズムの研究と、それに基づいた治療標的となり得る新規分子の同定を行って行きたい。その中で、Txnipを重要な候補として着目しており、Wfs1・Txnipダブル欠損マウスでは糖尿病の発症、β細胞脱分化の抑制を観察した。Txnipがβ細胞脱分化に関わるメカニズムを解明し、この分子を標的とする治療開発を目指す。 時計遺伝子と代謝の関連では、膵β細胞や肝細胞でのE4BP4過剰発現トランスジェニックマウスでの研究が順調に進んでいる。マクロファージでの役割については、炎症性腸疾患との関わりという予期せぬ役割を見いだして、そのことをさらに掘り下げて行く。さらに、E4BP4と逆位相で発現され、拮抗して働く時計遺伝子であるDBPのノックアウトマウスの表現系の解析を進めており、DBP/E4BP4経路の代謝上の役割をさらに明確にする。そのために、すでに着手しているDBP組織特異的ノックアウトマウスの作成を進めて行く。 これらにより、当初計画している目標を着実に達成して行く。
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