研究課題
SIRT7はNAD依存性の脱アセチル化酵素である。申請者はSIRT7が脂質代謝や骨代謝に重要な役割を担っていることを明らかにしたが、代謝恒常性の維持に重要な褐色脂肪組織(BAT)、脂肪組織炎症、骨格筋におけるSIRT7の役割は不明である。本研究ではこれら臓器・組織におけるSIRT7の役割を明らかにすることを目的とする。褐色脂肪細胞特異的SIRT7ノックアウトマウスを作製したところ、褐色脂肪組織における熱産生分子UCP1の発現増加と共に、体温の上昇、エネルギー消費亢進が認められた。次にに野生型およびSIRT7ノックアウトマウス由来SVFを褐色脂肪細胞に分化させ、UCP1の発現量について検討したところ、mRNA発現量については差を認めないが、SIRT7ノックアウト褐色脂肪細胞ではUCP1のタンパク発現量の増加および酸素消費量の亢進が認められた。以上の結果から、SIRT7は褐色脂肪細胞自律的にUCP1発現を制御していることが明らかになった。脂肪組織炎症においては転写因子NFkBが重要な役割を担っている。申請者は、SIRT7ノックアウト細胞ではNFkB p65の核外輸送が亢進していることを見出している(Sci Rep 2018)。本年度の研究の結果、SIRT7はp65の核外輸送に重要なRanに結合し、脱アセチル化すること、脱アセチル化Ranは輸送複合体の形成が阻害されるのに対し、アセチル化Ranでは複合体形成が促進されるためにp65の核外移行が亢進し、炎症反応が抑制されることが判明した(BBA Mol Cell Res 2019)。
2: おおむね順調に進展している
褐色脂肪細胞特異的SIRT7ノックアウトマウスおよびノックアウト細胞の解析が予定通り進展している。またSIRT7がRanの脱アセチル化反応を介して、NFkB p65の核外輸送を介して炎症反応を制御していることが明らかになった。
SIRT7による褐色脂肪細胞UCP1発現制御機構の解明:予備的検討の結果、SIRT7はRNA結合タンパク質であるIMP2に結合する可能性が示された。SIRT7とIMP2の結合について免疫沈降法で確認すると共に、SIRT7がIMP2を脱アセチル化するか検討する。IMP2のアセチル化状態がUCP1のタンパク発現量に及ぼす影響について検討する。SIRT7による白色脂肪組織炎症制御:SIRT7 floxマウスとLysM-Creマウスを交配し、マクロファージ特異的SIRT7ノックアウトマウスを作製し、その表現型解析を行う。骨格筋におけるSIRT7役割解明:予備的検討の結果、骨格筋細胞におけるSIRT7の発現量は低いが、SIRT7は骨格筋衛星細胞において強く発現している可能性が示されている。Pax7-Creマウスを用いて衛星細胞特異的SIRT7ノックアウトマウスを作製し、その表現型の解析を行う。SIRT7発現制御機構の解明:MIN6膵β細胞にERストレス、酸化ストレスなど種々のストレス反応を惹起させ、SIRT7発現量に及ぼす影響について検討する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Hypertension
巻: 75 ページ: 98-108
10.1161/HYPERTENSIONAHA.119.13357
BBA - Mol Cell Res
巻: 1866 ページ: 1355-1367
10.1016/j.bbamcr.2019.05.001.
http://srv02.medic.kumamoto-u.ac.jp/dept/biochem2/biochem2.html