研究課題/領域番号 |
19H03713
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
松本 道宏 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 研究所 糖尿病研究センター 分子代謝制御研究部, 部長 (90467663)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | グルカゴン / PKA / 遺伝子転写 / メチル化酵素 / 肝糖新生 / PGC-1α / 肝癌 |
研究実績の概要 |
本研究では、SETXの肝代謝調節における生理的役割と、インスリン抵抗性を基盤とする肝病態である糖新生亢進、NAFLD/肝癌への関与を明らかにし、本酵素の治療標的としての可能性を検証することを目標に、本酵素の発現調節/活性制御機構、SETXを介した肝糖新生/肝発癌制御機構の解析とSETXのメチル化基質の同定を実施する。 2019年度の研究成果を次に述べる。SETX遺伝子の発現はインスリンやアミノ酸シグナル、摂食状態の変化やインスリン抵抗性の有無による影響を受けなかったが、培養肝細胞ではグルカゴン-PKA経路により誘導された。SETXの活性調節因子として各種ホルモンや栄養、ストレスなどのシグナルの関与を検証したが、明らかなものを見いだせなかった。そこでSETXの活性調節分子の同定を目指して、本酵素の結合分子の網羅的プロテオミクス解析などを行い、候補分子を選出した。今後SETXを基質としたin vitro アッセイなどの生化学的手法により修飾活性を評価する予定である。 SETXを介した肝糖新生誘導機構の解析も行い、本酵素がcAMP依存的な糖新生系酵素の発現誘導・糖産生に不可欠であること、その機序としてPGC-1αの活性化を介することを明らかにした。本酵素がPGC-1αの活性制御因子と相互作用することも見出しており、現在その意義を解析中である。 SETXの肝発癌への関与をin vivoにて検討した。肝臓特異的SETX欠損マウスではNASH誘導食ならびに肝化学発癌剤ジエチルニトロソアミンによる発癌が抑制された。一方SETXの過剰発現により酵素活性依存的に発癌が促進された。 本年度までの研究から本酵素が肝糖新生と肝癌の促進因子である可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の進捗状況を研究項目ごとに以下に報告する。 SETXの発現調節機構:初代培養肝細胞におけるSETX遺伝子の発現はグルカゴン-PKA経路により誘導され、インスリンやアミノ酸シグナルにより影響を受けなかった。マウスの肝臓では摂食状態の変化や肝インスリン抵抗性の有無による変化を認めなかった。in vivoではグルカゴンシグナルの他に発現を規定するシグナルが存在すると思われた。 SETXの活性制御機構:SETXの自己メチル化を指標に、各種ホルモンや栄養素、ストレスによる刺激に対する応答性を検証したが、活性化するシグナルを見いだせなかった。本指標が活性を反映していない可能性もあり、ヒストンを基質にしたin vitroの活性測定系の構築に着手した。本酵素が翻訳後修飾により活性が制御される可能性を考え、修飾酵素の同定をめざしてSETXの結合分子の網羅的プロテオミクス解析から候補分子を選出した。現在SETXを基質としたin vitro アッセイなどの生化学的手法、ならびに、in vivoの機能欠損/機獲得実験などにより修飾酵素の同定を進めている。 SETXによる肝糖新生制御機構:肝細胞における糖新生系酵素の遺伝子発現はSETXのノックダウンにより抑制され、強発現により促進された。またPGC-1α依存的なこれらの酵素の発現も同様に変動したことから、SETXはPGC-1αの活性化を介して転写を促進すると推察された。本酵素とPGC-1αの活性を制御する分子群との相互作用を検討したところ、複数の分子と相互作用することを見いだした。 SETXによる肝発癌制御機構:肝臓特異的SETX欠損マウスではNAFLD-肝癌誘導食飼育により対照マウスで起こる肝癌の発症が著明に抑制された。本抑制はジエチルニトロソアミンによる肝化学発癌系でも認められた。またSETXの過剰発現により酵素活性依存的に発癌が促進された。
|
今後の研究の推進方策 |
初代培養肝細胞においてSETXの遺伝子発現は、グルカゴン依存的にGCN-CITED2-PKAモジュールを介して誘導された。今後PKA活性化の下流の転写活性化の分子機構を明らかにする。特に関与する転写複合体の構成分子とPKAの作用点を重点的に解析する。またin vivoにおける発現制御経路の探索も行う。 SETXの活性制御機構に関しては、in vitroの活性測定系を構築し再度各種刺激による活性への影響を調べ、制御経路を明らかにする。報告者らは本酵素が翻訳後修飾により活性が制御されると考えている。本年度の網羅的プロテオミクス解析から得た修飾酵素の候補に対し、SETXを基質としたin vitro アッセイなどの生化学的解析とin vivoの機能欠損/獲得実験などの機能解析を行い、修飾酵素を同定する。次いでSETXの修飾部位と種類を同定し、その意義を明らかにする。 これまでの本研究からSETXはPGC-1αの活性化を介して糖新生を促進すること、本酵素はPGC-1αの活性を制御する分子群と相互作用することが培養肝細胞において示された。PGC-1αは翻訳後修飾による活性調節を受けることから、今後SETXによるこの変化と責任分子を明らかにする。またin vivoにおける同様の機構の存在についても検証する。 SETXには肝発癌の促進作用があり、これにはメチル化酵素活性が不可欠であることが本年度の検討で示された。今後は本作用の分子機構を明らかにする予定である。
|