本研究では、SETXの肝代謝調節における生理的役割と、インスリン抵抗性を基盤とする肝病態である糖新生亢進、NAFLD/肝癌への関与を明らかにし、本酵素の治療標的としての可能性を検証することを目標に、本酵素の発現調節/活性制御機構、SETXを介した肝糖新生/肝発癌制御機構の解析とSETXのメチル化基質の同定を実施してきた。2021年度の研究成果を以下に述べる。 ① SETXのメチル化活性の制御メカニズムの解析:SETX免疫沈降産物を用いたin vitro メチル化アッセイでは、グルカゴン依存的な活性の変化を見いだせなかった。SETXがグルカゴン依存的に受ける翻訳後修飾を質量分析により探索し、リン酸化されることを見いだした。リン酸化欠損型ないし恒常的リン酸化型の変異体を作製し、リン酸化による活性調節の可能性を検証中である。 ② SETXによる肝糖新生制御メカニズムの解析:GCN5がSETXと相互作用することを見いだした。またグルカゴン依存的なGCN5の糖新生系酵素遺伝子制御領域へのリクルートとヒストンH3K9のアセチル化がSETのノックダウンにより障害されたことから、SETXがGCN5の機能調節に関与することが示唆された。 ③ SETXによる肝発癌制御メカニズムの解析:肝臓特異的SETX欠損マウスでは、NAFLD-肝癌誘導食飼育により対照マウスで起こる肝癌の発症が著明に抑制された。昨年度までに得た本酵素と相互作用する多種のアセチル化酵素、腫瘍抑制遺伝子産物を解析し、SETXのエフェクターの1つとして癌抑制遺伝子産物を同定した。 ④ SETXのメチル化基質の探索: 抗モノ・ジ・トリメチル化リジン抗体を用いてSETX依存的にメチル化されるタンパクの網羅的探索を行い、複数の基質候補分子を得た。これらのうち肝糖新生ないし肝癌の促進に寄与するものの同定に着手した。
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