組織修復過程における免疫機構を解明することは全ての外科手術において重大な課題である。近年、免疫システムの構築において腸内細菌叢が重要な役割を果たすことが明らかになってきているが、そのメカニズムについては不明な点が多い。好中球は組織損傷時、炎症をはじめとする自然免疫応答において生理病理学的に主要な働きを演じるが、同時に組織修復過程でも必須の働きをしている。本研究では生体イメージング法を用いて腸内細菌叢が炎症及び組織修復における好中球の動態・機能に与える影響を明らかにする。2021年度は主に以下の項目につき研究を行った。 1.腸内細菌叢除去マウスにおける肝修復過程の評価…肝臓に熱損傷を加え2光子励起顕微鏡で観察を行い、1)抗生剤投与マウスでは壊死物質の除去が遅延すること、2)好中球が壊死物質を貪食し、除去に貢献していること、3)抗生剤投与マウスでは血管再生、コラーゲン組織の沈着が遅延すること、を見出した。 2.肝障害時好中球動態の変化…Flow cytometryを用いて広域抗生剤投与により血液・骨髄中の好中球の総数が減少することを見出した。さらに詳細な検討ではLy6Gint好中球、Ly6Ghi好中球ともに影響を受けている傾向が認められた。肝臓に熱損傷を加え2光子励起顕微鏡で経時的に4時間の観察を行ったところ、損傷部位への好中球集積は抑制された。 3.腸内細菌叢除去マウスにおける肝損傷時のケモカインの評価…Luminexを用いて、腸内細菌叢除去マウスにおける肝損傷時KCの発現が抑制されていることを確認した。以上の結果より、広域抗生剤投与では血中・骨髄中の好中球数減少のみならず肝臓障害部位への好中球集積が障害され、組織修復過程が遅延することを示唆している。
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