研究課題/領域番号 |
19H03722
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
西田 俊朗 国立研究開発法人国立がん研究センター, 中央病院, 病院長 (40263264)
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研究分担者 |
小幡 裕希 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (20609408)
市川 仁 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, ユニット長 (30201924)
黒川 量雄 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 専任研究員 (40333504)
眞鍋 史乃 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (60300901)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | がん / ドライバー変異 / 局在異常 / オルガネラ / チロシンリン酸化シグナル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,肺がん, 消化器がん, 血液がん等の患者で検出されるキナーゼ遺伝子変異体について、その細胞内局在とシグナル発信の関係を解明することである。本研究代表者らは、受容体チロシンキナーゼであるKITの活性化変異体が、これまで考えられてきた細胞膜ではなく、エンドソーム系あるいはゴルジ体等の細胞内オルガネラに集積し、そこからシグナルを発信することを見出した (Nat. Commun., 2014: Oncogene, 2017; Cancer Lett. 2018; 未発表データ)。そこで、本課題では、「他のチロシンキナーゼ変異体もゴルジ体やエンドソームに集積しているか」, 「シグナル発信できるオルガネラ要件」, 「集積・停留の分子メカニズム」, 「特定の場以外ではシグナルが発現しない理由」 などの課題解明について計画した。 本年度は、はじめに、肺腺がん, 急性骨髄性白血病 (acute myelogenous leukemia: AML), 多発性骨髄腫, メラノーマ等の細胞を複数種類ずつ準備し、シグナル分子の活性化変異体の異常局在が共通して認められるかを検討した。抗体により、免疫蛍光染色し、共焦点イメージングしたところ、がん種やキナーゼ種類によって違いはあるものの、共通して上記オルガネラへの集積が認められた。さらに、変異キナーゼのチロシンリン酸化もそこに認められた。また、三次元超解像イメージングにより、ゴルジ体, エンドソーム, リソソーム等との関連を調べるセットアップをおこなった。AMLのKIT変異体については、抗リン酸化KIT抗体を用いた細胞内分布解析により、シグナルプラットホームがゴルジ体であることを見出し、2019年9月に学術論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
内在性の変異シグナル分子 (EGFR-L858R/T790M, KIT-N822K, FLT3-ITD, FGFR3-K650E等) と、その活性化状態を確認できる複数種類のがん細胞株 (接着: 肺腺がん, メラノーマ等; 浮遊, 急性骨髄性白血病, 多発性骨髄腫等) を準備し、細胞レベルで測定できる体制を構築した。また、それぞれのキナーゼについて、野生型を発現するコントロール細胞も準備できた。 免疫蛍光染色法で用いる抗体・イメージング試薬について、オルガネラマーカーも含め、円滑に選定することができた。それらを用い、共焦点レーザースキャン蛍光顕微鏡で、がん細胞の変異型チロシンキナーゼについて、局在異常という点で共通の特徴を見出した。さらに、チロシンキナーゼのリン酸化部位に対する抗体によるイメージングや、分子間相互作用の解析のためのproximity ligation assayを可能にした。 今後おこなう予定の超解像三次元蛍光イメージングのセットアップをおこない、オルガネラの詳細な区別についても好感触を得ている。ライブイメージングについても予備検討をおこなっている。同時に。複数の関連論文の発表にも至ったため、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度見出した「変異シグナル分子の異常局在」と、シグナルの関係について明らかにしたい。具体的には、リン酸化イメージングによるシグナル活性化オルガネラの同定, 分画法による確認, 細胞内移動ブロックの影響等を検討する。また、チロシンキナーゼ以外の変異体についても、解析を進めたい。さらに、変異シグナル分子がオルガネラに停留する分子メカニズムの解明をおこないたい。そのために、共免疫沈降法と質量解析法の組み合わせによる相互作用蛋白質の探索や、化合物パネルによる検討を進める。KITの異常局在の原因となる分子群については、上記スクリーニングにより、幾つかの候補蛋白質を見出しており、今後は、それらの機能喪失 (siRNA・shRNAによるノックダウン, ゲノム編集によるノックアウト, ドミナントネガティブ体発現)/獲得実験 (恒常的活性化変異の導入・発現) をおこない、KITシグナルにおよぼす影響や、他の変異シグナル分子のオルガネラ停留における候補蛋白質の役割等を解析する予定である。また、臨床研究審査委員会の承認後、腫瘍切片, 血液サンプルにおける解析を試みる計画を立てている。
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