研究課題
本研究は,肺腺がん,消化器がん,血液がん (白血病・骨髄腫) 等の患者で検出されるチロシンキナーゼ遺伝子変異体の局在異常とシグナル発信の関係を解明することを目的としている。本研究代表者らは,受容体チロシンキナーゼであるKITの活性化変異体が,これまで考えられてきた細胞膜ではなく,腫瘍細胞依存性にエンドソーム或いはゴルジ体と言った細胞内オルガネラに集積し,増殖シグナルを出していることを報告した (Nat. Commun., 2014: Oncogene, 2017; Cancer Lett. 2018; CCS, 2019; 未発表データ)。本課題では「他のチロシンキナーゼ変異体も正常とは異なるオルガネラに集積しているか」,「シグナル発信できる要件」,「局在異常を起こす分子メカニズム」と言った課題解明を計画した。本年度は,主に変異チロシンキナーゼの局在異常の分子メカニズムの解析と,その際に必要となるオルガネラの同定の予備検討をおこなった。局在異常の分子メカニズムについては,複数のスクリーニング手法でアプローチし,消化管間質細胞腫 (GIST) の変異型KITの小胞体→ゴルジ体の小胞輸送の責任分子群と,ゴルジ滞留の原因となるキー分子候補を見出した。現在, これら分子の機能喪失・阻害実験と分子相互作用解析をおこなっている。これら分子のKIT以外の変異シグナル分子の細胞内移動・停留での役割の解明を試みている。また,ゴルジのトランスとシス槽を,それぞれのマーカーを用いて三次元超解像イメージングの検討をおこなった。GM130 (シス),GS15 (メディアル),golgin97 (トランス) を明確に染め分けることが可能になり,今後,変異シグナル分子がゴルジ体のどの槽に分布して活性化するのか等解明を行う。
2: おおむね順調に進展している
本年度は,主に変異チロシンキナーゼの局在異常の分子メカニズムの解析と,その際に必要となるオルガネラ同定の技術的検討をおこなった。局在異常の分子メカニズムを,複数のスクリーニング手法で行い,GISTの変異型KITが小胞体→ゴルジ体の小胞輸送を担当する責任分子数個とゴルジ槽滞留に関与する一連のシグナル分子の候補を見出した。現在, それら分子群の機能喪失実験 (siRNA/shRNAによるノックダウンと阻害剤) と詳細な分子相互作用解析をおこなっている。更に,これら分子群がKIT以外の変異シグナル分子の細胞内移動や異常局在に関与するか検討している。また,三次元超解像イメージングと槽マーカー (GOLPH4,GRASP65,GM130,GS15,golgin97,syntaxin 6等)を用い、ゴルジ体をトランス・シスの槽に分離し解析した。GM130 (シス槽),GS15 (メディアル槽),golgin97 (トランス槽で明確に分けることが可能となった。今後,変異シグナル分子がどの槽に分布して活性化するか詳細な局在を明らかにする。
変異シグナル分子のオルガネラへの局在異常の分子メカニズムは,候補分子群の機能喪失をsiRNAまたはshRNAによるノックダウンで実施,局在異常が解除されるか確認する。それぞれの分子に対する阻害剤又は促進剤が入手可能であれば,これらでの検討も行う。分子間相互作用は,プルダウンアッセイ(GSTタグ/Hisタグ),免疫沈降法,近接ライゲーション法によって確認する。また,免疫染色と共焦点蛍光顕微鏡により,候補分子群の細胞内局在と機能に相関が認められるかどうかを確認する。本年度に構築したゴルジ体の超解像イメージングを,小胞体やエンドソーム・多胞体・リソソーム等のオルガネラにも適用拡大し,(変異)シグナル分子の新規合成から分解に至るまでの動態についての解析を行う。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 オープンアクセス 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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