研究課題
本研究ではエピゲノム特性を用いた胃癌症例層別化に基づいて、胃癌サブタイプの発癌分子基盤を解明することを目的とした研究を行う。胃癌検体および非腫瘍性胃粘膜検体を用いてInfiniumビーズアレイによるDNAメチル化解析を行い、各検体についてEBER in situ hybridizationによりEBVの有無、ギムザ染色によりピロリ菌感染の有無を評価する。これらの情報に加えてエクソン変異解析を行い、臨床胃癌標本の層別化を順調に進めている。その中で特にEBV(+)超高メチル化胃癌サブタイプは全悪性腫瘍の中で最もゲノム広範囲に高メチル化が及ぶなどエピゲノム異常が発癌に強く貢献する癌サブタイプであり、我々のEBV in vitro感染システムを用いて、EBVが胃上皮細胞に誘導するエピゲノム異常を詳細に解析した。これまでの研究で我々は、EBV感染は遺伝子プロモーター領域にDNA高メチル化を誘導し多くの癌抑制遺伝子を不活化することを報告してきたが、本年度はヒストン修飾およびオープンクロマチン領域の網羅的解析を進め、不活化および活性化する遺伝子エンハンサー領域について解析した。エンハンサー不活化により発現抑制される遺伝子群は上皮分化に関連する遺伝子などである一方で、エンハンサー活性化により発現上昇する遺伝子群は細胞増殖や増殖応答に関連する遺伝子群であり、それら活性化エンハンサー領域に濃縮するモチーフ配列から、ATF3など一部の転写因子の関与が考えられた。ATF3はEBV感染した上皮細胞で、EBV因子であるEBNA1やLMP2Aなどにより発現上昇し、EBV除去によりATF3発現は低下し、またEBV要請胃癌細胞株においてATF3をノックダウンするとアポトーシスにより細胞増殖は抑制された。以上胃癌サブタイプの1つであるEBV胃癌におけるエピゲノム変化を介した発癌分子機構の一端を明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
臨床胃癌標本に対する網羅的解析による症例層別化は順調に進んでいる。胃癌サブタイプの1つであるEBV胃癌に対してヒストン修飾、オープンクロマチン領域の解析を順調に進めるだけでなく、転写因子ATF3の発現上昇を介したエンハンサー活性化による発癌機構を同定し報告するなど計画以上の進捗があった。さらに別の転写因子やEBV因子の関わり、さらにはクロマチン近接関係に対するHiC解析などについても計画以上のペースで研究は進みつつある。
臨床胃癌検体および非腫瘍性胃粘膜検体を用いた網羅的解析による胃癌層別化を引き続き本年度も進める。全悪性腫瘍の中で最もゲノム広範囲に高メチル化が及ぶなどエピゲノム異常が発癌に強く貢献する胃癌サブタイプであるEBV(+)超高メチル化胃癌サブタイプについては、本年度も引き続き我々のEBV in vitro感染システムを用いて詳細な解析を行う。ヒストン修飾、オープンクロマチン領域、クロマチン近接関係に対してChIP-seq, ATAC-seq, HiC, 4C-seqなどの網羅的解析を進め、癌化に関わる遺伝子の発現上昇の分子機構として、転写因子を介したエンハンサー活性化や、3次元クロマチン構造のダイナミックな変化による機構などを解析する。それらエピゲノム変化を生じる領域に対してエピゲノム変化を阻害して抗腫瘍効果を発揮する化合物の検証を行う。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 7件、 招待講演 11件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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