研究課題
本研究ではエピゲノム特性を用いた胃癌症例層別化に基づいて、胃癌サブタイプの発癌分子基盤を解明することを目的とした研究を行う。胃癌検体および非腫瘍性胃粘膜検体を用いてピロリ菌やEBVの感染の有無を評価し、またDNAメチル化およびエクソン変異について網羅的解析を行い胃癌標本の層別化を順調に進めている。さらにHi-C解析を正常胃細胞2個、胃癌細胞株14個に対して行い、クロマチン3次元構造の網羅的解析を行った。活性化/不活化領域(A/Bコンパートメント)を解析したところ、EBV胃癌にのみ特異的なコンパートメント変化を認めた。驚くべきことにBからAに異常活性化する領域は、感染EBVゲノムがヒトゲノムにエピソーマルDNAとして結合した領域に合致した。胃細胞にEBVを感染させるin vitro実験系を用いて検証すると、EBVゲノムはヒトゲノムのヘテロクロマチンに結合し、その領域では不活化マークであるH3K9me3修飾が消失し、新たにエンハンサー活性化マークであるH3K4me1やH3K27ac修飾を獲得していた。その領域と周辺ゲノムの近接関係を解析するため4C-seqを行うと、この異常活性化エンハンサー領域は周囲のユークロマチン領域にある遺伝子プロモーター領域と新たな近接関係を構築していた。これらの近傍遺伝子はがん関連遺伝子を含み、その遺伝子のノックダウンや、異常活性化するエンハンサー領域をCRISPRで削ることで細胞増殖の低下を認めた。このように、発癌ウイルスによる全く新たなエピジェネティック胃癌発癌機構「エンハンサー侵襲」を発見することに成功した[Nat Genet 52:919, 2020]。
1: 当初の計画以上に進展している
エピゲノム特性を用いた胃癌症例層別化に基づいて、胃癌サブタイプの発癌分子基盤を解明することを目的とした研究を進めており、胃癌標本の層別化について計画通り順調に進んでいる。Hi-Cによるクロマチン3次元構造の解析を行い、予想だにしなかった新たな発癌機構を解明することができた。エピゲノム変化によるエンハンサーの活性化や周囲の遺伝子発現変化は想定していたが、ヘテロクロマチンが破綻して内部でサイレンシングしていた不活化エンハンサーが異常活性化するなどのダイナミックな変化や、外来DNAの結合がその原因となっているなど、胃癌や癌を超えた、生命現象としての新発見となった。
胃発癌に重要なエピゲノム変化や、その下流遺伝子を同定しつつあり、さらなる詳細な機能解析を進めるとともに、それらを標的とする阻害化合物について投与・検証実験を行って治療応用への礎を築く。
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