研究実績の概要 |
生体高分子供給源の解糖経路と細胞核分裂機構はがん増殖の原動力でありながら、これまでは独立した悪性形質とみなされ、個別に研究が進められている。本研究は大腸がんを対象に、我々が見いだしたglycogen synthase kinase(GSK)3βのがん促進作用に着目し、両者の悪性形質に共通して作用してがんを促進する分子経路を解明する。これにより、GSK3βを指標とする大腸がん増殖の病態を究明し、本酵素を標的とするがん治療法開発の研究基盤を強化する。 正常細胞と大腸がん細胞を対象に、AMP-activated protein kinase(AMPK)の第172, 479スレオニンのリン酸化(pAMPK-T172, pAMPK-T479)レベルと酵素活性を比較解析し、がん細胞で不活性型pAMPK-T479分画が亢進し、それに伴って酵素活性が低下しているかを検討した。がん細胞のGSK3βを阻害してpAMPK-T479レベルや酵素活性の変化とmammalian target of rapamycin(mTOR)経路分子を解析した。その結果、GSK3βが特異的リン酸化により大腸がん細胞のエネルギーセンサー酵素AMPKを不活性化していることを明らかにした。がん細胞移植マウスとがん組織検体を対象に、代謝産物量、GSK3βとPDHのリン酸化と活性、核分裂構成分子の発現を生化学的および免疫組織学的に測定、解析し、細胞と分子レベルで得られる結果の腫瘍における再現性を調べ、病理学的特性と比較した。これにより、GSK3βが糖代謝改変や細胞核分裂を促進する機能とそのメカニズムを実際のがん病巣で検証した。
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